人手不足や自動化・標準化によりニーズがましている産業用ロボット(多関節ロボット)。今回はどのような工程で多関節ロボットが使われているかを初心者にわかるよう簡単に解説したいと思います。
以前、下記記事ロボットシステムを組むためにシステムインテグレータに依頼する際に気をつけることをまとめました。今回は生産工程の観点から、どのような工程が多関節ロボットで自動化することで効果(費用、品質、安全等の効果)があるかに着目して解説します。
人と共存しながら使用することを目的とされた協働ロボットではなく、今回は一般的な産業用の多関節ロボット(安全柵が必要で、主に6,7の回転軸を持ち、人間の腕のような動きができるロボット)で考えたいと思います。
以下、日系主要産業用ロボットメーカー8社とKUKAの計9社のHPを元にまとめました。各工程の得意なメーカーの部分はオプションや専用仕様を元に判断しています。括弧内にその根拠を記載しています。
参考URL
FANUC https://www.fanuc.co.jp/ja/product/robot/model/index.html
安川電機 https://www.yaskawa.co.jp/product/robotics
川崎重工業 https://robotics.kawasaki.com/ja1/products/
不二越 http://www.nachi-fujikoshi.co.jp/rob/
デンソー・ウェーブ https://www.denso-wave.com/ja/robot/
三菱電機 https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/rbt/robot/index.html
ダイヘン https://www.daihen.co.jp/products/robot/robot/
芝浦機械 https://www.shibaura-machine.co.jp/jp/product/robot/
KUKA https://www.kuka.com/ja-jp/
アーク溶接

アーク溶接とはいわゆるよくイメージする”溶接”のことで、ガスを放電させて金属と金属を繋ぎ合わせていく溶接です。放電する際に青い光が出ます。
溶接は非常に高温な上、目に光が入ってはいけないため、大変危険な作業となります。さらに製品も重量物や大型のものも多いです。手作業で仕上げる場合、人によって品質も変わってきます。危険な作業、重量物を扱う作業、品質が人によって変わる作業はロボットが適しています。
また複数台のロボットを協調(同時に制御してシンクロさせる)させることも可能で、製品側もロボットに持たせて製品の様々な部分の溶接も可能です。
ロボットシステムの構造としては、ロボットハンドの先端に溶接トーチを持たせます。電流を流すため様々なケーブルが必要になりますが、溶接で溶けてしまわないようカバーをする必要があります。それらのリスクを減らすためケーブル類をロボットの中に内臓できるロボットも増えてきています。
得意なロボットメーカー(他のロボットメーカーでも可能)
安川電機、ダイヘン、(川崎重工、FANUC)
※上記メーカーは溶接電源や溶接治具、ポジショナー(溶接治具として使用される製品を回転させるテーブル)も一緒に製作ができるため溶接システムとしての販売実績も多いです。また溶接条件もロボットのコントローラで設定できます。工場ではテスト場を設けており、ロボットで溶接できるかどうかのテストを行うことも可能です。
レーザー加工
レーザー溶接や切断、溶着などレーザー加工もアーク溶接と同じく危険作業のため、ロボットが向いています。溶接電源ではなく、レーザーの発信器や集塵機、その他安全設備が必要になります。
FANUC、安川電機はレーザー加工専用のロボットをラインナップしています。
スポット・シーム溶接
アーク溶接とは違い、板と板を重ね合わせたところに抵抗電流を流して接続する溶接方法です。自動車のボディ等様々な板金の接続で使用されます。ロボットで行う場合、ロボットの先端に取り付けた溶接ガンで板と板を挟み込んで電流を流します。ガンの先端が電極になっており、電極が当たる一点を接続するイメージです。

スポット溶接と似ているシーム溶接は、電極が円盤形状になっており、回転させながら抵抗電流を流して溶接する方法です。一点一点を接続するスポット溶接と違い、線で溶接します。ガソリンタンクの外周や厨房機器などを接続して密閉する際に行われます。こちらもロボットに適しています。
スポット溶接ガンは非常に重いのですが、止まって溶接しては次のところへ素早く振動せずに(位置がブレずに)動く必要があります。そのためロボットの加速性、制振性が求められます。
得意なメーカー
安川電機、不二越、(川崎重工、FANUC)
※この2社のロボットは上記スポット溶接の特徴に優れたロボットの他、ロボットコントローラで溶接条件等の設定が可能で、提携先含めて様々な溶接ガンの相談も可能です。
ハンドリング
最もロボットが利用される工程です。製品の機械への搬入出、工程間の搬送などのために、機械の間や横におかれて製品を搬送します。製品を搬送するため製品を保持するハンドが重要となります。搬送だけであれば、システムインテグレータに依頼することなくロボットメーカーが全て用意してくれることも多いです。治具などへ挿入する必要がある場合は正確な位置決め精度が求められます。
バラ積みピッキング
バラ積みされた状態からカメラで3Dで製品の位置を把握して掴み取る3Dピッキングがオプションでできるメーカーも増えています。3Dピッキング専用のシステムインテグレータもあります。

得意なメーカー
全ロボットメーカー
大型:FANUC、安川電機、川崎重工、不二越、KUKA
小型:全メーカー(ただし中でもFANUC、不二越、三菱電機、デンソーウェーブが比較的多いように思います。)
ハンドリングを含めたロボットシステム例

パレタイジング
ハンドリングと似ていますが、物流倉庫や出荷前倉庫などでの移載に用途を絞ったロボットです。段ボールや梱包後の製品、食品工場のボトルケースなどケースに入った製品を、パレットから別の場所やパレットに移載します。持ち上げて移動して降ろすという単純な作業になるため、パレタイズ専用ロボットは、4軸や5軸に機能を絞り、比較的リーチの先端まで使用できるような仕様になっています。(ロボットを後ろに引くような形で支える支柱がついているものが多い)。
得意なメーカー(パレタイズ専用ロボットを持っているメーカー)
FANUC、安川電機、川崎重工、不二越
組立
製品の挿入、ボルト締め、ナットやブッシュなどの部品挿入、接着剤塗布など部品の組立工程でも多関節ロボットが用いられます。電子部品などの組立工程では小型のロボットがよく使用されています。ただし完全にロボットで自動化できる製品は少なく、検査工程や何か人の手による嵌合が必要な場合など、作業者が介入することが多いです。そのため協働ロボットの方が向いている工程ともいえます。

自社専用のシステムを構築しなければならずほとんどの場合がシステムインテグレータに依頼しますので、ロボットメーカーよりもシステムインテグレータが実績があるか等で選定が重要となります。自社でシステム構築する場合には、操作性が慣れたロボットメーカーが良いと思います。
得意なメーカー
全ロボットメーカー
大型:FANUC、安川電機、川崎重工、不二越、KUKA
小型:全メーカー(ただし中でもFANUC、不二越、三菱電機、デンソーウェーブが比較的多いように思います。)
シーリング
組立工程にも入ることが多いですが、シール材を塗布するシーリングでもロボットが使用されます。ロボットであれば正確な軌道で安定したシール塗布が可能です。しかしシール材が供給チューブの中で固まったりもあり、意外に難しい分野でもあります。シーリング材をロボットの動きに合わせて供給するようなオプション等、シーリング機器との連動が可能なメーカーもあります。
自動車の内装品の接着等でも使用されており、ボディの枠組みがある中で様々な角度に駆動する必要があるため、6軸より7軸あるロボットが適しています。(ロボット先端側の軸が1つ多いので、ボディの枠組みの中に入り込んだ状態でさらに回転などができ、干渉を最小限にできるため)。
得意なメーカー(シーリング機や専用オプションがあるメーカー、他メーカーもシーリング自体は可能)
安川電機、川崎重工、不二越
バリ取り・研磨
金属部品や樹脂部品の加工後に出るバリ(削れた跡に製品にちょっと残っている削れカスなど)取り工程でもロボットは使用されます。バリ取り工程は見た目の判断が必要であったり、製品によってばらつきがあるため、まだ人手で行っていることも多くロボット化が注目されている工程です。細く地味な作業のため作業者の技量や作業継続時間により差が出ます。

さらに細かい粉が出ることも多く作業者の健康面にも悪影響です。そのため自動化・機械化が常に求められてきましたが、バリのでかたが一定でなかったり、製品寸法自体やロボットの繰り返し制度のばらつきによって、取れ方が変わってしまうことが問題点です。そのため力センサを用いてロボットが製品に当たった部分の負荷を検知して、そこからプログラムを走らせるような倣い方式ができるロボットも多いです。それでもまだまだ課題は多いですが、今後はよりロボット化が進むと考えられる分野です。
得意なメーカー(力センサや倣いのオプションがあるメーカー)
FANUC、安川電機、川崎重工、不二越、三菱電機、ダイヘン
画像検査

ハンドリングの部分でもカメラでバラ積み状態を把握してピッキングする3Dピッキングを紹介しましたが、カメラを使用して人の作業をロボットに置き換える工程も多いです。中でも製品の傷や組立部品の有無、確認を行う画像検査工程でロボットが用いられます。ロボットの頭にカメラをつける場合や、システム(装置)内にカメラを設置してロボットが製品を掴んでカメラの前に持っていく場合などやり方は様々です。検査工程をカメラやロボットで行う場合、人による違いを防ぎ品質を安定することが可能です。反面、傷でないものを傷と判断する過検知が多いことも問題です。そのような人の目で見て判断した基準を自動化するためには、人の判断と類似した結果を出すAIシステムがあります。ロボットメーカー自体がカメラも含めてそのようなオプションを用意しているところも増えています。バリ取りと同じく今後もよりロボット化が進む分野と思われます。
得意なメーカー(3DピッキングやAIオプションがあるメーカー)
FANUC、安川電機、川崎重工、デンソーウェーブ、三菱電機
塗装

製品を塗装する工程でもよくロボットが利用されます。塗料は有害なものもあり作業者に悪影響を及ぼします。そのため機械で行うことがベストですが、機械ではどうしても直交の動き(上下、前後、左右)のみになるため、6軸多関節ロボットを使用すれば、より塗装できる範囲が広がります。塗料がかかりにくい部分にも、複数の関節を使って狙い撃ちができます。
ただし塗料が引火性のあるものもあり、塵にもなって舞うため、ロボット側も防爆仕様である必要があります。
得意なメーカー(防爆仕様、塗装仕様があるメーカー)
FANUC、安川電機、川崎重工、芝浦機械、KUKA
以上、多関節ロボットで自動化できる工程を7つ紹介致しました。ごく一般に行われている工程ばかりですが、何か自動化検討の際のヒントになれれば幸いです。