こんにちは。私は文系大学を卒業後、機械など何も知らないまま新卒で機械商社に入社しました。今回は、7年ほど営業で働いてきた中で感じた機械商社の営業を通して身に付くスキルを紹介したいと思います。
実は転職活動もしたことがあり、他業界(メーカーやコンサル)に内定をいただいていました。転職活動の際に強みとなった部分も含めて紹介します。
機械商社の特徴
まず機械商社・営業の主な特徴としては次の3点です。
①技術者(特に生産技術者)を相手に仕事をする。 ②ユーザーとメーカーの間に入りプロジェクトを動かす。(メーカーにも動いてもらわなければならない。) ③ユーザーの意思決定者も多く、仕様打合せが必要で提案力で受注可否が決まる。
①技術者(特に生産技術者)を相手に仕事をする。
営業する相手は基本的に生産技術の方か、工場長や社長など経営陣です。単純に仲が良いからだけでは商売に繋がりません。技術的なことも含めて相手の話していること、求めていることを明確に理解して、論理的に説明しなければなりません。
②ユーザーとメーカーの間に入りプロジェクトを動かす。
機械は検討ー発注ー納入ー立上までの期間も長くプロジェクト管理が必要です。ユーザーとメーカーの主張が食い違う場合も板挟み状態になりながらプロジェクトを遂行しなければなりません。またお客様であるユーザー絶対主義ではなく、メーカーにも動いてもらわなければいけません。
言いにくことは商社にだけ言われることも多く、どちらからも信頼され、自分毎としてプロジェクトを動かす必要があります。
③ユーザーの意思決定者も多く、仕様打合せが必要で提案力で受注可否が決まる。
好き嫌いといった感情で発注先が決まるものではなく意思決定者が複数いるため、社内稟議を通すために論理的にメリットを伝える必要があります。また仕様もユーザーや機械によって様々なため、詳細な打合せをによりニーズを明確に把握した提案が必要です。
仕事内容や機械商社毎の違いを解説した記事です。
これらの特徴を踏まえて得られる能力を考えました。
コミュニケーション能力
ここでは話す力・スキルといった意味ではなく、「他者との意思疎通を上手に図る能力」と考えます。この能力の中に、相手の本音を正確に聞く力とそれをわかりやすく伝える力があると考えています。
商社の仕事はほとんどが、基本的にユーザーとメーカーの間に入り、話を聞いて理解して、正確に必要な情報をもう一方に伝えことの繰り返しです。
機械商社の仕事での具体例① 機械の打合せ、プロジェクト管理
機械の仕様は非常に細かいのでどうしても思っていたものと違うということがよく起こります。ユーザーに合わせて一から設計する専用機などは尚更です。
認識の差が出て問題となった事例
2年目の時 シャフトに溝を掘ったり穴を開けたりする専用機を受注しました。もちろん最も大切な要求である溝を掘ることや穴を開けることはできたのですが、導入してからユーザーはツールの欠けを確認するセンサもついていると思っていたが入っていないことがわかったり、タッチパネル内の表記や動作順序なども思っていたのと違うということがよくありました。 初めにユーザーによって要求仕様を明確にしてもらえていなかったことも原因ですが、こちらから聞くこともしなかったため、後味が悪くなってしまいました。このように技術者によって思っている常識が違うことがよくあります。
それからは事前の打合せで細かなニュアンスも含めて確認やコミュニケーションを取ることを大切にしています。
機械商社の仕事での具体例②営業
仲が良い、安いだけでは機械は買ってもらえません。相手の本音(相手が何を考えているのか、本当に困っていることは何か)を聞き出して最適な提案をする必要があります。
本音を聞くことによって新規開拓につながった例もあります。
1年目から新規で通っていたユーザーで、従来から競合の機械のみを使用されていました。従来からの付き合いがあることや担当者の上司が同じ機械で良いと考えていましたが、担当者は心の中には現場に不満を持っていました。 担当者も表立っては言わなかったのですが、なんとなくの雰囲気で現状のサービス体制に不満があることがわかりました。そのため自社が提案しているメーカーのサービス体制を重点的に提案するようにしました。具体的にはアフターサービス体制を名前と連絡先を明記した資料を用意。電話が繋がらなかった時の代替者も含めて記入しました。 反対に競合はそこまで踏み込んだ提案をしてこず、従来通りの提案をしてきていましたので、担当者が「この金額なら新しいメーカーでも買えそう」という金額を教えてくれて、初めての機械でしたが受注することができました。
言葉で明確には言えないような本音を理解する、聞き出せるようなコミュニケーションを取ることの重要性を知りました。
機械商社の仕事での具体例③トラブル対応
トラブル時にはコミュニケーションにより正確な状況確認や、相手の気持ちを汲み取る必要があります。人が何かに怒っている場合、大抵はその人の気持ちや状況を相手に理解されていないと考えて怒っているように思います。
まずは相手の話を聞いて状況や気持ちを理解することで議論を前に進められるので、厳しい指摘をされても言い訳をせず、逃げずに真摯に話を聞いて受け止める必要があります。
新しいチャレンジを実行して自ら学ぶ力(PDCAを回す力)
機械商社は広く浅く様々な商材を扱うため常に学んでいなければなりません。旋盤などの切削加工機やプレスなどの鍛圧加工機など様々な商材を覚えた上で、ユーザーに関して(製造業界全般)も理解しなければなりません。それらを自ら学び、業務で実践して修正する繰り返しです。
またユーザーの求める価値は常に変化しているため、それらに対応できるよう新しいチャレンジをしなければついていけません。ものを作らず、“人”が財産の商社だからこそ、リスクが低くチャレンジしやすいこともあるので、会社でも個人でも常に新しいチャレンジを行い、そこから実行して学んでいく力が必要です。
私の場合は、年間、月、週間、毎日の目標をそれぞれ設定して、週に1回振り返りを行っています。1年目の途中から始めましたが、自分自身の現状把握、成長に繋がったと思っています。7年目の今でも続いています。
目標例
年間:何件新規開拓をするか。どのようにノルマを達成するか。どのような機械を意図的に販売するか。
月 :どの案件に注力する(どこまで案件を進める)か。どのユーザーに訪問するか。
週間 :絶対にやり遂げることは何か、どのユーザーにコンタクトをとるか。
毎日:どのような目的で訪問するか。何を得るか。
このように日々PDCAを管理することで、自分を客観的に把握することができ、新しいチャレンジを計画的に行うことができ、チャレンジするだけでなく自分の成長に繋がります。
このスキルは仕事の基礎のためどのような業界でも役に立ちます。自分で考えることが多い商社だからこそPDCAを回すチャンスは多いです!転職活動をしていた時もこの能力を強みとしてアピールすることで他業界(コンサルやメーカー)から内定をいただきました。
論理的思考能力
断片的な情報から「なぜそうなるのか」、「本当に解決が必要な課題は何か」「それをどのように解決できるか」等を論理的に考えて、誰でも理解できるように説明しなければなりません。BtoBで1つの案件に関わる人も多くユーザーの担当者に社内を説得してもらわなければならないため、どのようなメリットがあるかを論理的に提案できなければなりません。
トラブルが起きた際も、原因や対策を考え、最適な案を実行に移していかなければなりません。その際にもユーザー側、メーカー側両者の意見を聞き、誰もが納得できる説明が必要です。
お願い(依頼)する力
正直にいうと毎日お願いしてばかりです。
自社でモノや具体的なサービスを作っていないため、様々なことをユーザーにお願い(依頼)したり、動いてもらうためにメーカーにお願い(依頼)しています。ビジネスは人と人同志のやりとりのため、ただ単にこちらの要望や正論を伝えるのではなく、相手を理解、配慮した上でお願いすることが重要になります。
場合によっては、論理的に考えれば間違っていても、どうしてもお願いしなければならない時も多いです。(例えば、金額や納期の交渉、ミスに対する挽回策や再発防止策を伴った謝罪等。)これは本当に気を遣う一番嫌な仕事です。
お願いする力やお願いされて動く力
納期の短縮や費用に関してなど、無理なお願いする人も申し訳ない気持ちを持って頼んできているように思います。それを正論で突き返すのではなく、お願いを聞いて精一杯行動することで信頼関係を構築できます。 これらの部分は人によって差が出る部分で、「あの人がいうなら動く」場合もあります。そのため、普段から困った時にお願いできるような人間関係を築いておく能力、実際に困った時に人に頼れる能力が必要になります。これは他業種でも通用する立派なビジネススキルだと思います。
プロジェクト管理能力
複数のメーカーの機械をライン受注をした場合などには、全体の工程をみて各進捗を管理するプロジェクト管理が必要となります。関わる人々がユーザー生産技術、製造、保全、各メーカー営業、製造関係等、社外の人が多いため社外の人の管理をしなければなりません。すぐに実際に見にいけたり、定期的に会議があるわけではないため、各企業・関係者の特徴を把握した上で自分から管理して動かさなければなりません。
電話で聞いた内容と実際には違う場合もあるので、現場に足を運んで詳細を確認することも必要となります。トラブルや遅延が出ていても、先述した“お願いする力”も駆使して落とし所を見つけながらプロジェクトを進めていかなければなりません。
気持ちを切り替えられる力
商社の仕事は日々トラブルが起こり、基本的にユーザーとメーカーの板挟みです。どちらの意見も理解できる場合が多く自社だけで解決できないため嫌なお願いもしなければなりません。そのような時でも、仕事とプライベートを切り分けられてリフレッシュできたり、何を言われてもあまり気にしなかったりする能力があった方が仕事がしやすいです。
これらは能力というよりも商社で働いていると身についていき、精神的にもタフになれます。
まとめ 転職活動時の経験も踏まえて
ざっと機械商社で必要な能力を書いてみました。どんなビジネスでも必要な能力ばかりで、仕事をしながら身につけることが可能な能力だと思います。私自身、機械商社で営業を数年しているうちに、ここに書いた能力を得て、嫌な時でも気持ちを切り替えられるようになりました。
転職活動をした際には、「PDCAを回す力」をメインでPRしていましたが、その中のエピソードで「お願いする力」や「プロジェクトマネジメント能力」もPRでき、他業種でも数社から内定いただきました。今回かいた能力は結局全て知識というよりも人間力の部分になるため、どのような業界、職種でも求められるものになります。よって商社での営業経験は普遍的である程度潰しの聞く経験になるのではないかと考えています。