4年ぶりのリアル開催となったJIMTOF2022。皆さんは参加されましたでしょうか。工作機械メーカー、工具メーカー、その他様々なメーカー・商社が最新技術を独自のやり方で展示していました。中でも私は工作機械エリア(東館1~8ホール)とAM(積層造形)エリア(南館)を重点的に見学しました。その中から感じたことや過去のJIMTOFと比較して感じた今回のトレンドを独断と偏見で紹介します。
全体の感想
4年ぶりのリアル開催なこともあり非常に活気があふれていました。人であふれて歩けなくなっているところや、歩き疲れてクタクタになる感覚もなんだか懐かしいとも思いました。
より現場目線の技術が目立った!?
出展内容は全体的に世間の流行ワードよりも、より現場目線の技術展示に戻ったように感じました。2016年や2018年の時と比較して、“IoT”や“DX”など流行ワードを前面に押し出した展示ではなく、より生産現場での課題解決技術をアピールしている企業が多いと感じました。カーボンニュートラルに関しても、「工程集約ができた結果、CO2排出量も減らせる」というように“目的”ではなく”結果”として紹介していることが多いと感じました。
ロボットだけではない自動化
同じくロボット自体の展示も減っているように感じました。2014,2016,2018の時は、工作機械メーカーのブースもロボットだらけの印象を持ちました。今回も昨今流行りの協働ロボット(+搬送台車)だらけになるのかとも思っていましたが、そうではなく各社多様な自動化法を揃えていました。ロボットは目的ではなく自動化の一手段としての紹介になっていると感じました。
上記どちらも私が実際に見てみた印象でしかありませんが、各社より引合に繋がりやすいユーザーニーズを意識したからではないかと思いました。
カタログが充実
これは理由は分かりませんが、カタログが充実していました。従来は出展機一覧が載っているチラシ1枚や総合カタログだけの企業が多かったですが、今回はJIMTOFの出展機の見所や解説なども含まれている冊子が多く、振り返る上で非常に参考になりました。ここまでカタログが充実しているJIMTOFは初めてでした。
JIMTOFは人と会う場所
会場では新しい人、かつてお世話になったけど疎遠になっていた人などいろんな人に出会えて話ができました。初めは最新情報の収集をしまくるぞ!と意気込んでいましたが、いろいろな人と話ができたことが非常に楽しく、結局そちらの方が充実していました。周りにもそのような光景が広がっていて、JIMTOFは最新技術だけでなく人に会う場所でもあったと改めて気づきました。そういう意味でも今後も大きなリアル展示会の魅力があると思いました。
雰囲気に呑まれるので、出展側は見せ方(言葉での紹介や雰囲気作り)が大事
「展示会は体力勝負!」と言われることもありますが、今回のJIMTOFも活気と人に溢れていて雰囲気に呑まれて回りきれずに疲れ切ってしまいました。説明員の方にしっかり話を聞けたところはいいですが、詳しくわからないまま出てしまったブースもありました。どの展示会でも同じですが、人が多いブースは入りやすいが、説明員がなかなか開かない、逆に説明員ばかりのブースは少し入るのに勇気がいると思いました。
機械が置かれているだけでなく、セミナーや実演、パネル展示などがあると入りやすく、来場者が増えても良いと感じました。特にパネルなど言葉やイラストでの説明があると、人が寄ってきて、読む間はそこに止まるため、説明員があいていない時も読んで待つことができます。パネルなどでの見せ方も工夫も効果が大きいと感じました。
工程集約
”工程集約”が最も多く感じました。5軸加工機によるマシニングセンタ加工の工程集約、複合加工機による旋盤とマシニングセンタの工程集約だけでなく、専用機で行っていた工程の集約が目立ちました。例えば、ギア加工の集約(スカイビングセンタでの集約は今までもありましたが、参考展示から実績ベースの展示になっていました。)、研削工程、レーザー溶接、摩擦攪拌接合、積層造形など様々な工程の集約がありました。加工工程だけでなく、測定や検査工程を集約して1度の加工で完結する機械も多数出展されていました。
※工程集約に関しては下記記事にまとめています。
長時間運転の自動化
単なる自動化だけでなく長時間自動化するための技術も目立ちました。機械やパレットチェンジャーなど機械自体を大型化するパターンから、チョコ停を減らすための細かな切粉対策技術など幅広い展示がありました。
マルチパレットチェンジャーでの5軸加工機
松浦機械製作所に代表される5軸加工機に多数のパレットチェンジャーを取り付けて多品種の加工を長時間無人で行う機械の展示が目立ちました。パレットチェンジャー側での治具段取り替えや操作性もしやすいように工夫されていました。
主な展示メーカー:松浦機械製作所、牧野フライス、キタムラ機械、DMG森精機
松浦機械製作所
ベストセラー機MAM72-35をリニューアル
さらにマガジンやパレットチェンジャーの拡張性UP、操作性をより扱いやすく、多品種のプログラムを管理・応用しやすいように一新。
牧野フライスのD300自動化システム
長時間自動化のための切粉対策
クーラント自動制御システム
マシニングセンタのテーブルや製品についた切粉を落とすためのクーラントノズルを自動で動かす機能も増えていました。DMG森精機のAIチップリムーバルは、カメラで切粉の体積状況を認識してノズルを自動で動かす機能でした。その他、カメラでの認識までいかずとも自動でクーラントノズルを動かす機能が充実していました。
主なメーカー:DMG森精機、松浦機械製作所、他
揺動切削
旋盤の連続加工において問題になるカール状の切粉。高圧クーラントシステムで切削点近くで切粉を細かく切断する方法などがありましたが、旋盤のプログラムで切粉をカール上につなげない揺動切削の展示が目立ちました。揺動切削とは、工具を切削方向へ直進させるのではなく、切削しながらサーボ制御により軸を振動させて工具を逃しながら加工する方法です。前回のJIMTOFオンラインではシチズンマシナリーが展示していましたが、今回は多くの旋盤メーカーが展示しているため、他社も効果があると判断された機能なのだと思いました。1行のGコードや対話式プログラムなど揺動切削を簡単にできるようになっていました。
主なメーカー:シチズンマシナリー、中村留精密工業、ヤマザキマザック、TAKISAWA、他
プログラミングの自動化・シミュレーション
NCプログラミングやシミュレーション技術などソフトウェアの発展も目立ちました。
3D図面を入れるだけで自動でNCプログラムを作成する機能や、ギア加工、5軸加工など技能が必要な加工のプログラムを簡易作成するソフトウェアなどプログラミングに割く時間を減らす機能が充実していました。中村留精密工業では過去のJIMTOFでも展示していましたが、よりできる内容やメーカーが増えていました。工作機械メーカーだけでなく、加工業者が製作したAIでNCプログラムを自動生成するソフトも出てきていました。この分野はこれからもより発展していく分野だと思われます。
加工プログラムをデジタル上でシミュレーションして干渉回避や形状の確認ができる機能も多数のメーカーが出展していました。
このあたりに関しては下記記事でまとめています。
EV部品をターゲットにした加工機
市場動向を考えれば当然ではありますが、EV部品をターゲットにした展示や最新機械が多くありました。
アルミ製品の大型加工機
アルミなど軽切削を加工する主軸テーパー径がBT30のマシニングセンタの大型化が目立ちました。EV部品はアルミのケースものが多く、エンジン車の部品と比べて大型化していることをターゲットにしていました。例えば今までBT30のマシニングセンタでは、ロングストローク仕様でもX軸ストローク700mmほどでしたが、X軸1000~1200mmの機械が数点出展されていました。
主なメーカー:ホーコス、エンシュウ、ブラザー工業
主なターゲット製品:インバーターケース、モーターケース
超大型加工機
インバーターやモーターケースだけでなく、ボディ、シャシー部品も大型化しているため、5軸加工機や門型機の大型化の展示も目立ちました。テスラ社のギガプレスの影響からか、特に海外では大型の加工機が求められているようです。その中で国内市場を見るとより省スペースな機械が求められるため、機械メーカーの開発部門もそれらのどちらかをターゲットに絞るかで意見が割れていて難しい問題のようです。
摩擦攪拌接合・レーザー溶接
インバーターケースなどのケースもののふた?のようなイメージでケースと板を接合する技術も目立ちました。既に実績のあるものとして、マシニングセンタで切削と合わせて摩擦攪拌接合(FSW)で板を接続する機械が2種展示されていました。摩擦攪拌接合とは高速回転させた工具を押し当てて摩擦熱を生み出し、それで溶けた材料を攪拌させて接合させる技術です。
ケースなどの蓋を摩擦攪拌接合することで、ボルト止めや溶接などに比べて密閉率や強度を高く密閉できます。ダイカストや鋳造で製作する場合と比較しても(蓋をする前に)内部構造を加工できるので、複雑な冷却配管などを設けることができます。
レーザー溶接機は溶接材料が必要にはなりますが、摩擦攪拌接合よりも速いことが特徴です。
主なメーカー:ヤマザキマザック、ホーコス、エンシュウ(溶接)
AM(積層造形)
AM(積層造形)関連は、JIMTOF全体の企画展示として南館でまとめられていました。特に欧米で実績が増えている金属積層造形機ですが、日系メーカーを中心に最新技術が並んでいました。特に日系工作機械メーカーの得意とする切削技術を混ぜて、積層造形したものを切削加工で仕上げたり、切削した部品に造形したりと一台でワンチャッキングで切削・積層造形どちらもできる機械が目立ちました。2つのレーザーヘッドによる造形スピードの向上や位置合わせ技術による造形精度の向上など、工作機械メーカーとしてのノウハウを生かした積層造形機が多くありました。こちらも別記事でまとめたいと思います。
その他~気になった技術~
8軸ロボット:ローレルバンクマシン
なんと8軸持つ多関節ロボットが展示されていました。多関節ロボットは通常6軸、多くても7軸ですが、もう1軸追加されていました。通常のロボットはアームの直線部と直線部は端で固定接続されていますが、アームの交点を動かすことができる構造(2つのアームの交点に回転軸があるxMotion(クロスモーション)構造:LAUREL HP引用)になっていました。多関節ロボットとスカラロボットを組み合わせた形で、多関節ロボットで自身のアームが邪魔になる部分(例えばロボットの直下部)にもアクセスしやすいようです。まだ参考段階のため実績もありませんが、面白いと思いました。
同時6軸微細加工機 NIC-74:ナガセインテグレックス
工作機械では珍しい球体構造の微細加工機です。自由曲面の微細ナノ加工が可能です。新開発した切削工具の刃先の位置が変わらない工具主軸や高剛性で機内温調している球体構造により超精密加工ができます。超超微細加工機とうたっているだけ、様々な球面、曲面への加工や極小レンズの加工などに使われています。私はここまでの超超微細加工機は販売したこともありませんが、球体構造の工作機械を見たことがなかったので非常に見入ってしまいました。
以上、本記事はJIMTOF2022の全体の感想をまとめてみました。