今回は機械商社や機械メーカーの営業として入社したて、転職したての人向けに、機械の検討、受注から導入、立上までの流れを簡単に解説したいと思います。流れが掴めないまま普段の営業をしていては、お客さんと話が合わないことがあります。せっかく受注してもその後の段取りが悪ければ、迷惑をかけてしまうことになります。そこで今回は本当に全く流れがわからない人向けに言葉の意味や仕事の流れを一から簡単に解説します。ざっくりとした流れをわかっていただければ幸いです。
※本記事では機械商社や工作機械メーカーの営業の方を主語にしています。
引合→提案から受注まで
引合とは
日々の営業の中でお客さんから「こういうものがないか?」と聞かれたり、実際に「この商品の見積くれるか?」と見積依頼をされたりするなど、何か悩みを相談されたり、案件をいただくことを「引合をもらう」と言います。基本的に営業マンはこの引合を得るために日々営業活動をしているイメージです。引合がなければ受注もできないため、引合数が売上成績に比例するといっても過言ではありません。
引合後・提案
引合後は、お客さんのニーズにあった解決策を提案します。機械商社の場合は、数ある商材や自社のメリットの中からお客さんのニーズにあったものを提案します。お客さんが何を求めているかというニーズ、また心の中でどう思っているか(潜在ニーズ)を把握することが重要となります。
機械メーカーの営業の場合は、自社の商品でできる課題解決の中から、お客さんの課題にマッチするものを提案したり、逆にお客さんがまだ知らない・把握していないニーズに対して提案することが重要となります。
どちらの場合も、提案がお客さんのニーズに合って気に入ってもらえれば見積→具体的に検討となります。
見積
見積をとる際には、機械の仕様がお客さんによって変わり、金額も大きく変わるので、打合せが必要となります。機械商社の場合も、機械メーカーの営業員と同行して打合せを行います。技術的な対応可否など入念な検討・確認が必要となり、見積提出までに時間がかかることがあります。大体2週間〜1ヶ月ぐらいは見積に時間がかかります。
見積提出後
仕様の打合せなどを繰り返して、不要なもの、抜けているものはないか確認します。可能であればメーカーの工場見学やテスト加工など実物を見ることが最も重要です。
仕様が固まって最終見積を出す段階で値引をして提示することが一般的です。お客さん(製造業)側も機械購入の際には、見積や検討内容が妥当なものかを会社として把握するために2,3社相見積をとることが一般的です。金額だけで決定することも少なく、この段階ではどこが受注するかほぼ決定している場合がほとんどです。
仕様が固まり、最終見積を提示した後は、お客さん側の稟議申請を待つ場合が多いです。オーナー企業で社長が即決で注文をいただける場合もあります。
機械の受注(発注)
機械の受注前に契約条件(お金の支払い条件や回収条件)を把握する必要があります。
支払い条件とは、機械メーカーに対していつお金を支払うかという条件になります。通常は「納入検収後」(検収に関しては後述の「納入後のスケジュール」を参照)の場合が多いですが、機械メーカーによっては、受注時に一部(30%など)の支払い(前払い)が必要な場合があります。これは機械メーカーとしては、機械を製造するために様々な部品や外注加工を購入するため先にキャッシュ(現金)が出てしまうため、先に30%でも回収しておき資金繰りを安定させるためです。
※検収とは、「納入されたものが、発注内容どおりであるかを検査すること」です。一般的には、お客さんが「納品された機械が問題ないので、お金を支払います。」と許可をすることのようなイメージです。検収を上げてもらって初めて正式に引き渡すことになります。 厳密には引き渡すまでは、お客さんのものではないので生産には使用できません。また納入してから見つかった不具合などの修正(部品製作)に時間がかかり、検収打合せの段階で宿題(後日対応する項目)が残ることも多いです。これらの状況に合わせて打合せて、3社納得する形で進めていく必要があります。
回収条件とは、お客さんからお金をいただく(回収する)タイミングの条件です。こちらも通常は機械導入して稼働することを確認してからのため、「納入検収後」が多いです。
また回収する際の方法も様々です。会社の口座に振り込んでもらう現金振り込みや、手形での支払い、電子決済をする電子債券など、様々な方法があります。現金であれば振り込まれてすぐにお金として使用できますが、手形の場合、手形の期日になるまで現金化できません。回収としては、少しでも早く現金化できる方法で、少しでも早くもらえることが理想です。
手形の期日は、90日や120日など、数ヶ月単位でかかる場合がほとんどです。
受注(機械発注)後の流れ
機械は購入後に使用し続けることもありお客さんも信頼できるところにしか発注できません。それを裏切らないよう努めなければなりません。
機械の受注後はまず今後のスケジュールをお客さんとも共有します。大日程表と言われる大まかなスケジュール表を提出します。いつまでに承認図を作成、承認を得て、機器類を発注、機器類の調達後に組立開始、調整など機械完成までのスケジュールを記載します。
承認図の提出
まず機械メーカーが承認図の作成に入ります。機械を製作する前に、仕様の細かいところまで問題がないかを確認、書面で契約するためのものになります。承認図段階でお客さんから指摘があれば、修正します。明らかに見積段階と大きく異なってしまい、追加で費用がかかるものはその段階で相談します。納期が遅れる場合は、この承認図の設計段階が遅れている場合が多いです。設計者が他の案件で忙しく手がつけること自体が遅れているという場合がほとんどです。そのようなことがないようフォローする必要があります。
承認図を提出した後は、大体技術者や設計者を含めて打合せを行います。見積段階では決まっていなかったことなど、細かい部分を確認します。そのため承認図作成前に設計者と行うことも多いです。
図面承認後
お客さんの承認を得た段階で初めて正式に製作に取り掛かります。モーターや機器を滑らせるガイド、電子部品関係など購入品で納期がかかり変更がないことがわかっているものは先に手配しておいたりします。
承認後遅くとも調整段階ではお客さんのワーク(製品)が必要になります。そのためいつまでにいくつワークが必要なのかなどのスケジュールを管理する必要があります。
機械の組立ができ、調整ができた段階で状況を報告、問題なければ出荷前立会へと進みます。組立ができたら大体もう動くだろうと思ってしまいますが、案外動かしてみてから出てくる問題も多数あります。機械メーカーとしてはそれらを自社内で解決させて、確認してから立会に望みます。そのようなバグだしの時間も必要となります。納期が遅れていたり、無理に早めようとするとこの時間を削減するのですが、そうやって納入した機械は結局お客さんの工場でバグだしをすることになります。そうなると修正にも必要以上に時間と手間がかかってしまうため、できる限りメーカー工場でバグだしを行うべきです。
出荷前立会検査
機械が完成して、メーカーとして問題ないと判断した段階で出荷前立会を行います。出荷前立会とは、メーカーの工場に機械がある内にお客さんにチェックしてもらうことです。修正して欲しい点も指摘してもらいます。機械は細かい仕様まで打合せと図面だけではわからない部分も多く、現物を見てから要望が出てきます。例えば安全の観点からカバーをつけてほしいだとか、操作盤の表記を変えて欲しい、プログラムを変えて欲しいなど様々な要望が出てきます。メーカーとしてもそれらは出荷前であれば修正しやすく、これをしていないと納入後に修正が多くなり、修正に時間や費用がかかってしまう場合があります。
出荷前立会の1日の流れ(一例) ①挨拶:工場にいる納入立上をする技術者や、責任者と面談します。 ②外観チェック:機械の外観を確認します。カバーや操作性、メンテナンス性などを確認します。 ③動作確認:実際の動作を行なってみて確認します。機械を扱う作業者が動作してみることで実際のイメージができます。 ④テスト加工:テスト加工をして精度が出るか、お客さんの求めているものができるかを確認します。事前にデータを送付しておき、それと比較して問題ないかを実際にお客さんに見てもらう工程になります。精度が出ていない場合、入るよう様々な修正を行わなければなりません。 ※②〜④の工程で機械を見ている気づいた指摘があれば、記録しておきます。 ⑤打合せ:立会での実施内容や指摘項目、今後のスケジュールを打合せします。
納入前の準備
出荷前立会よりも前に行なっていなければなりませんが、納入前の準備も必要です。
設置場所、搬入ルートの確認
見積段階でも搬入ルートに問題がないか、設置場所に問題がないかを確認する必要があります。その上で、受注後は納入前に実際に搬入作業を行う重量屋さんとともに搬入ルートの正式な確認を行います。
重量屋さんとは、機械のような大きく、精密なものを運送、運搬、搬入、据付まで行う業者です。そのような運搬作業は専門技術が必要となり、機械メーカーの作業員ではできません。また機械の搬入は一人ではできず、危険も伴うため規律とチームワークが重要です。重量屋さんは職人の体育会系なところが多いです。
設置場所には基礎が必要な場合があります。基礎とは住宅と同じくコンクリート基礎のことです。工場でも古いところは基礎がしっかりされていなく、新しい設備の納入と同時に基礎工事が必要な場合があります。一般的に工作機械では、機械の重量を耐えられる床であれば、特に基礎の指定などもない場合が多いです。ただし大型の機械では基礎を作らなければならない場合があります。大型の機械では基礎だけでなく、機械の土台を埋め込む必要がある場合もあります。その場合ピットを掘らなければなりません。
これらの基礎やピットなど工場の地盤や建屋に関わる工事に関しては、お客さんから建屋建築業者などに依頼いただくことが一般的です。機械販売業社ではそれらの技術、資格、知識がなくお客さんの建屋のことも基礎のことも把握しているそのような業社に頼みます。
一次側電気・エア工事
もう一点、一次側電気の配線工事、エア配管の工事を事前にお客さんに準備してもらわなければなりません。これらは納入日の流れで説明します。
納入日の流れ
いよいよ機械の納入です。納入日は工場内や工場の外(公共の場を含む)を大型のトラックが移動したり、荷下ろし作業をするため、工場が休みの土日に行うことが一般的です。そのため機械納入担当者は休日出勤してもらうことになります。
納入日の流れ ①朝礼:重量屋、機械業社(メーカー、商社)、お客さんで当日の作業やスケジュールを確認します。お客さんによって安全指示事項がある場合があります。 ②荷下ろし:トラック、トレーラーから荷物を下ろします。ユニック車と呼ばれるクレーンがついた運送ができるトラックや、レッカーと呼ばれるクレーン車で荷下ろしをします。フォークリフトで荷下ろしをする場合もあります。お客さんの工場のフォークリフトを借りる場合もあります。 ③横引き:横引きと呼ばれる荷下ろしした機械を設置場所まで引っ張る作業です。台車(戦車)と呼ばれるタイヤのついたプレートに機械を乗せて搬送します。日本の狭い工場でも少しずつスペースを見つけて周りにぶつからないよう運んでいきます。重量屋さんの腕の見せ所で、職人技を感じることができます。 ④据付:設置する場所まで来たら仮置きします。お客さんと正確な位置や向きを確認しながら微調整して設置します。一度据付完了してしまうと動かすことが難しいため、入念な確認が必要です。 ⑤レベル出し:レベル出しとは機械の高さを合わせる作業です。床の微妙な高さ違いにより機械の場所による高さが変わってしまいます。例えば、右手前側は少し高くて、左後ろが下がっている場合、斜めの向きになってしまいます。その状態で加工を行うと、精度がずれてしまいます。そのため、機械設置後に4隅や各所で高さを確認して、調整します。機械の足であるアジャスタと呼ばれる部分で調整することが可能です。この作業は機械メーカーの指示で重量屋さんが行う場合が多いです。 ⑥一次側電気配線・エア工事:先述しましたが、機械を設置し終えたら、一次側電気配線の接続工事、エア配管の接続工事が必要です。
※一次側電気配線とは、工場の電力供給配線を機械に接続する作業です。工場により配線の長さやキュービクルと呼ばれる工場の電源盤(電気を制御している盤)の容量なども違うので、お客さん側で用意してもらいます。電気配線工事には資格が必要なため、お客さんから業者に依頼することが一般的です。工場毎にいつも電気工事を依頼するような業者があります。
エア配管工事も同じく、工場のエア供給用配管から持ってきます。これの接続自体は資格は不要ですが、工場全体のエア供給を制御しているコンプレッサーの容量などの確認が必要です。大体建屋を建てるときに工場全体に配管工事がされていて、設置場所近くの配管からホースで持ってくることになります。
納入後のスケジュール
納入後は機械の規模にもよりますが、以下の流れが一般的です。
機械納入後の流れ ①機械納入・レベル出し:半日〜1日ほど。土日。 ②一次側電気・エア工事:数時間ほど。搬入日に行うこともある。 ③復元 :機械を搬送のためにバラしている場合、復元作業を行います。配線などに時間を有する場合もあります。半日〜2,3日ほど。 ④動作確認・試運転:機械メーカー側で動作確認や試運転を行います。1,2日ほど。 ⑤立会確認:お客さん立会の元、動作確認を行います。契約の条件(検収条件)で明記されている場合は、その内容を行い問題がないか確認します。半日〜1日ほど。 ⑥操作説明:作業者に向けて操作説明を行います。操作のほか、定期メンテナンスや故障や異常で停止した場合の復元方法などを説明します。半日〜2,3日ほど。 ⑦生産立会:必要な場合は、お客さんが生産されている現場に立ち会って、何かあればすぐに対応できるようにします。実際に生産で使ってもらうと、操作でわからないことや今まで出てこなかった不具合が出てくることがあるので、それらにすぐ対応できるように立ち会います。この工程はないことも多いです。1日〜2,3日ほど。 ⑧検収打合せ:⑤の立会確認の時の最後の場合もありますが、検収打合せを行います。機械を納入して、動くことを確認、問題点や修正の時期、状況の確認を行います。その上でお客さん、機械メーカー、機械商社3社で打合せを行い、検収の可否を確認します。
検収後
検収後ももちろん不具合があれば、修正対応を行い、操作でわからない点があれば、メーカー作業員が説明に伺ったりします。初めての機械を導入した場合お客さんも不安な点も多いため、アフターサービスをしっかりすることが信頼関係と取引拡大につながります。
※保証期間としては大体が納入後1年のメーカーが多いです。この期間内の不具合などは無償対応します。お客さんがものをぶつけて機械を壊してしまった場合などは別です。
すごく簡単にですが、機械受注後の流れをまとめました。何かの参考になれば幸いです。