こんにちは。今回は様々な業界で精密な加工に使用されるサーボプレス機に関して、どのような構造で、メカプレスや油圧プレスと何が違うのか、どのようなメリットやメーカーがあるのかを紹介したいと思います。
※プレスの中でも1t以下〜20tクラスの小型機から80t〜200tクラスの中型、300t以上の大型、メカ式(カムやリンク機構)、油圧式(油圧機構)、液圧式(水圧等の機構)など様々な種類がございます。今回は自動車部品や家電、電子部品、家具等様々な金属加工で使用される中型〜大型で中でも高生産性なサーボプレスに関して紹介します。
サーボプレス機とは 構造・メカプレスとの違い
サーボプレス機とは
そもそもサーボプレスとは、サーボモータによりギアを回転させてプレスのスライド(上型がつく板)を動かすプレスです。サーボモーターにより回転数を精密に制御でき、1.位置制御、2.速度制御、3.圧力制御が可能です。
1.位置制御
プレスする位置を制御できます。上型の位置を精密に制御することで、毎回決まった位置で加圧することができ、成形精度を保ちます。
2.速度制御
プレスが下降・上昇する速度を制御できます。速度を制御することで生産性を向上できます。例えば、加圧時は速度を落として加圧することで丁寧で正確な成形が可能となり、加圧していない時は速度を上げることで無駄な時間を削減します。
3.圧力制御
プレスの加圧する圧力を制御できます。一定の圧力で加圧し続けることもでき、深絞り加工などができます。
サーボ機構(サーボモーターによる制御機構)に関しては下記三菱電機のYoutubeチャンネルに詳しく紹介されていました。サーボ機構のできることに関しては、1:20~2:10あたりに簡単に紹介されています。
メカプレスとの違い
通常のメカプレス機では、モーターの回転によりフライホイールを回転させ、ホイールとメインギアを接続させて減速させ、上型と繋がったクランクシャフトを1回転させてプレスを1回下降→上昇させます。その場合、圧力、速度は細かく設定できず、一度駆動させると必ず1回転する形になります。また、最大圧力を発揮できるのは下死点(上型が付くスライドが一番下まで降りた地点)のみになります。それ以外のところでものに当たっても最大圧力は伝わらず、下死点で圧力をかけ続けることもできません。
油圧・液圧式プレス
油圧や水圧などを利用して駆動します。メカ式と比べて速度が遅いですが、どの位置でも最大圧力を発揮できます。しかし油漏れ等の可能性もあります。
特徴
・どの地点でも最大圧力をかけることができる。
・圧力をかけ続けることができる。
・メカ式と比べて速度も遅く生産性が低い。
・精密な制御はできない。
・油漏れなどのリスクがあり、電力消費量も多い。
サーボプレスの具体的な機能
サーボプレスの具体的な機能を紹介します。価格はおおよそ通常のメカプレスの1.5~2倍近い金額となります。しかしこれから説明する様々な機能で生産性を向上、また今は受注できていない仕事も取り込むことで利益・売上増に繋げることが可能です。
※下降する位置、加圧を開始する位置、加圧力、速度を精密に制御できるため、高精度な加工が可能です。この特徴に加えて、サーボ機構を生かしたよく付帯する機能も合わせたメリットを紹介します。メーカーやオプション等によっては実施できない場合もあります。
フリーモーションでの加工
サーボプレス一番のメリットはフリーモーションで製品にあった加工ができることです。モーションとはプレス時の金型の動き(位置、速度、圧力)の設定のことです。製品毎に最適なモーションを設定できるため生産性の向上を図ることができます。
フリーモーションがよく使われる例
加圧時だけ低速にすることで、ワークや金型への負荷を減らして高精度な加工を実現させます。メカプレスで同じような低速で加工する場合、加圧していない部分(下記図では①や③)まで低速になるため、生産性が落ちてしまいます。位置、速度、圧力を任意に設定できる(フリーモーションができる)サーボプレスならではの加工となります。
振子モーション(フリーモーション活用の一例)
下死点まで降りた後、少し上昇して再度下降する工法です。通常のメカ式のように必ず1回転するわけではなく、振子のように降りては上昇、下降を繰り返すため、1回転するよりもストローク数(1秒間に打てる回数)を増やすことで、高速加工ができます。
スライド位置自動補正
スライド(上型のつく板)の下死点位置を制御、自動補正(自動で修正)できるため、連続運転時の熱膨張に対しても寸法安定、不良率の削減に繋がり、高精度加工を実現させます。連続運転時におけるダイハイトの微調整が不要となります。
※自動補正とは、指令した下死点位置と実際の下支点位置が合っているかをセンサ等で確認して、差があれば自動で指令を変更する機能です。
荷重管理・補正
ロードセル(荷重計)にて最大荷重・偏心荷重を管理します。実際の荷重を確認することで、司令値との違いを自動補正します。連続運転時の金型の熱膨張による変化などに自動で対応ができます。圧縮加工などに最適です。
省エネ
メカ式と違いフライホイールがなく、常にモーターを駆動させている必要がないため使用していない間は電力を消費しません。さらにどのメーカーも減速時に回生電力を蓄える機能を搭載しているため消費電力が低くなります。
回生電力とは回転の減速時に出る運動エネルギーを蓄えておいて使用する電力です。
予防保全が可能
ロードセルでの荷重管理を行うため、異常値がでた際には操作盤で知ることができます。またどのメーカーもIoT機能を搭載できるため、違う場所にいても異常時に知ることができ、予防保全に繋がります。
補助金の活用
サーボプレスには上記メリットがあるため、ものづくり補助金などを活用することをおすすめします。通常のメカプレスの設備更新では採択されづらいですが、サーボプレスにより様々な生産性向上、新製品の開発を行うことができるので、申請しやすい分野です。
さらに設備投資費を考えても、メカプレス80t、110クラスでおよそ7,000千円~9,000千円のところを、サーボプレスにすることで12,000千円~16,000千円ほどになります。
ものづくり補助金では、上限10,000千円で1/2または2/3まで補助が出ますので、上限あたりで補助を受けることになり、実際の投資額はあまり変わらなくなります。
サーボプレスメーカー 4社紹介
サーボプレスには1ton〜20ton程の小型から、40ton以上の中・大型と幅広い機種があります。小型と中・大型では機械メーカーも異なります。今回は40ton以上のサーボプレスを製造しているメーカーに絞って紹介したいと思います。
中・大型メカプレス機のシェアは現在では基本的にアイダエンジニアリング、アマダプレスシステム、コマツ産機の3社で占められています。今回はその3社の会社概要とサーボプレスの特徴、及び他のサーボプレスを製作している放電精密加工研究所の紹介をしたいと思います。
アイダエンジニアリング
事業概要:プレス機械、各種自動機械、産業用ロボット、金型等プレス関係全般。
☆特徴☆
・プレス(鍛圧)機械としては売上トップ。プレス機専業メーカーで売上世界第2位。
年間売上高 691億59百万
21年3月期 第三四半期売上実績 392億37百万
プレス機 283億67百万
サービス 78億98百万
その他 29億72百万
・1917年創業。1933年に国産第1号機のナックルプレスを製作。その後プレス一筋。2002年に世界初のダイレクト駆動サーボプレス
・成形システムビルダ
プレス機械だけでなく、周辺装置や成形方法、アフターサービスまで成形システム全般をパッケージで提供。
・低速・高トルクなサーボモータも制御技術も独自開発によりダイレクトサーボプレスを製作。
・ラインナップも最多。80ton〜3000tomまでサーボプレスを製作可能。
☆印象☆
非常にユーザーからの評判がよく、国内で営業している中で感じるシェアも高いイメージ。町工場から大手企業まで幅広く使用されている。剛性や精度の評価も高い。リピート率が高く、サービス等の不満もあまり聞かない。(あくまで個人の印象です。)
アマダプレスシステム
事業概要:プレス機及びプレス周辺機器製造
☆特徴☆
・2021年3月期 第三四半期決算
アマダグループ売上高 1717億
プレス部門 97億(板金1303億)
・板金加工機メーカー最大手アマダのグループ。2020年4月にグループを再編して鍛圧プレス部門が独立。
・2019年4月にコイル材供給装置メーカーシェアトップのオリイメックを統合。コイル材供給、製品の自動搬送も含めてプレスの周辺機器も含めて1社で提案が可能に。
・アマダは1946年に東京都で創業。旋盤や鋸盤を製作ののち、板金機械を製作。オリイは1946年に東京都で創業。
・アマダソリューションセンタでは、様々な機械を配置して、ユーザーの課題解決への提案を行うことができる。
・ネットワークが豊富。プレスの営業所・サービスセンタが日本全国で35拠点。海外はアマダグループの販売ネットワークが63拠点。
・デジタル技術、ソフトウェアにも注力。板金と合わせて生産管理システムなども自社で製作。独自ネットワークにサービスにより受注を取り込む。
☆印象☆
板金設備のソフトウェアが強く板金設備をアマダ製のものを使用しているためプレスもアマダ製にしているユーザーも多い。営業マンが歩合性のため、営業マンの裁量が大きくタイミングによっては非常に低価格の時もある。
コマツ産機
事業概要:プレス、板金加工機メーカー。小型建機大手の小松製作所の産業機械部門が独立(1994年)
☆特徴☆
・2021年3月期 第三四半期決算
小松製作所全体の売上 1兆5133億円
コマツ産機(板金含む)の売上高 287億円。
・小松製作所は1921年創業。1924年に450t液圧プレス製作。その後トラクタ等建機の開発と並行してプレス機を製造。以来ヨーロッパを中心とした海外向け含めて様々な大型プレスを製作。
・自動車部品むけ大型鍛造プレスに強み。国内、海外ともに多数の実績がある。
・シャベルカーなどの小型建機で使用していた、ネットワークによる遠隔監視システム「KOMTRAX」をプレス機にも採用。最も早い段階からIoT化を実現。標準搭載されており、ネットワークに接続するだけで設備情報、生産状況の遠隔監視が可能。海外でも使用可能。
・35ton〜1000クラスまで製作。3社の内60ton以下を製造しているのはコマツ産機のみ。
・サーボプレスは1998年には開発。サーボプレスの開発自体は最も早い。後に大型も開発。2008年時点でサーボプレス2000台出荷。
☆印象☆
建機で先駆けていたIoT技術をプレス機にも展開、標準で搭載。IoTがあるからコマツ製を選ぶ会社も複数社。サーボプレスに注力している印象。
放電精密加工研究所
事業概要:放電加工を主体とした受託加工。ガスタービンなどを製造。金型、アルミ押出用金型等。金属表面処理の受託加工、航空機部品等。プレス機等メカトロニクス製品。
☆特徴☆
・21年2月期 第三四半期売上 機械装置部門(プレス部門)8億77百万。
グループ全体では83億23百万
・1961年創業。放電加工の受託加工。住宅、エネルギー、自動車分野からの受注。2002年にオリジナルのデジタルサーボプレスを開発。
・1961年創業。放電加工の受託加工。住宅、エネルギー、自動車分野からの受注。
・門型39,49,98,196,294,100tonのサーボプレスを製造。
・2002年にオリジナルのデジタルサーボプレスを開発。
4つのサーボモータと4つのボールねじを用いており、それぞれ独立制御が可能。そのため偏心荷重にも対応してスライド平行度を保つことができる。ミクロンレベルのプレス停止位置の繰り返し精度を実現。最大化圧力を前ストローク位置で発生可能。
・ダブルスライドの複動プレス。内側と外側にスライドがあり、それぞれ独立させて制御するため、平行度を保つことができます。燃料電池のセパレータの精密成形等で使用されています。
・リニアスケールからスライド位置情報をサーボモータからモータトルク情報を読み取り、見える化できる。ブレークスルー発生時のスライド位置情報を見える化できる。
・2段階の冷間鍛造で2段ギアの製造や炭素繊維材の均一加圧による精密成形等、様々な複雑な成形が可能。
まとめ
以上、今回はサーボプレスのメカプレスとの違い、メリット、メーカーに関して、図を入れながら解説致しました。メカプレスの更新を考えている、新たにプレスの仕事を取りたい、生産性を向上させたいという方の参考になれれば幸いです。