昨今ゲームやエンタメ業界で注目されているメタバースやXR(VR:仮想現実、AR:拡張現実、MR:複合現実)。それらは製造業でも使われているのでしょうか??
2022年6月に開催されたXRの展示会「Meet XR 2022 in Osaka」を見てきた内容も踏まえて製造業で使われるVR/AR技術・サービスの最前線や導入の課題やできることなど特徴を解説します。
Meet XR 2022 in Osaka 感想
つい先日、大阪で開催されたVR関係の展示会に行きました。VRのソフトウェア、ハードウェアを開発・製作・販売している企業・団体20数社が出展していました。出展者の多くは既存のVRハードウェア(Microsoft社製HoloLenzや、Meta製Oculus Questなど)を利用したサービスを展開していました。特にBtoBで最もVR活用が進んでいる建設業や、これからの利用が期待されている製造業向けの出展がほ目立ち、来訪者も完全なイメージですが、それらの業界やそれらの業界とビジネスをされている方が多いように思いました。今までこれらの技術はゲームやエンタメが主流でもあったため、より建設や製造などBtoB関連での活用に注目されているのだなと肌で感じました。
私自身も数年前から製造業の今までできていなかった課題解決にVRを活用できないかと考え、情報収集してきましたが、技術的にもできることが増えていると感じました。
具体的には…
・AR/MR関連技術・3Dモデルが進歩
現実の中に仮想のものを見えるようにするAR/MR技術がより進歩していると感じました。例えば、VRレンズ越しに見ることで作業指示が出てくる技術は前からありましたが、3Dモデルや3D実写データを現実空間に配置、それをどのように使うかのシミュレーションをするなどといった技術は以前にはなかった、または使えるレベルではなかったように思います。
・おそらくデータ容量が大きいものの活用が簡易化
おそらく今まで技術的にはできていたがデータが大きすぎるため活用しきれていなかったことができるようになっていました。例えば、今までは遠隔作業指示や安全体験、デジタルマニュアルの表示がメインでしたが、360度動画での工場見学や現地確認、3Dモデルを組み合わせたレイアウト設計や工程設計・指示などより膨大なデータ容量を使うサービスが目立っていると感じました。
製造業で使われるVR/AR 5選
VR/AR/MRの違い
そもそもVRとAR、MRは何が違うのでしょうか。VRはVerchal Reality”仮想現実”の略で、PCなどで作る仮想空間に入り込み現実のように体験できることです。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着することで、実際に仮想空間に入り込む体験ができます。またアバターを介してスマホやPCで入り込むこともできます。
ARはAugmented Reality”拡張現実”の略で、現実空間に仮想空間のものを追加することです。例えば、作業指示をVRレンズ越しの画面上に表示して、それを見ながら実際の機械を触って作業をすることなどです。
MRはMixed Reality”複合現実”で現実の空間を認識して仮想の3Dのものを組み合わせる技術です。例えば、スマホで見ている工場内に仮想空間の3Dモデルの機械を置いたときにどのようなレイアウトになるかを見ることのようなイメージです。
ではそれぞれの技術を使って製造業での課題を解決するサービスと企業を紹介します。
ここで紹介する企業はせっかくですのでMeet XRに出展していた企業を中心に1社紹介します。その他にもサービスを展開されている企業はございます。
トレーニング・危険体験
主に建設業で活用されていますが、危険体験など安全トレーニングでの活用方法です。実際に起きてはいけない危険作業をVR上で体験することで予防するトレーニングです。今までは動画や書類で説明したり、行うことが通例でしたが、VR上でより体験型にすることで、現実味がまし危険度の理解に繋がります。また実物の機械を使い体験できる安全道場を自社で製作されている製造業も多いです。安全道場ではどうしてもできないような危険な体験もVRでなら行うことができ、VR教材とすることで講師も不要となります。
解決できる課題
・安全教育、社員・新人教育など動画や書類だけではできない体験型のトレーニングができる。
・教育にかかる人件費や設備(安全道場など)費の削減。
向いている企業・工程
・危険作業が伴う工場(重量物や高温、高所作業、化学薬品など)
・大手企業で安全教育に一定のコストがかかる企業
・プラント関係などエンジニアリング作業が必要になる企業
参考企業紹介
積木製作
安全体験VRトレーニングのコンテンツを製作している企業です。建設現場向けが多いですが、様々な企業とコラボすることで実際の作業現場が忠実に再現されています。製造業関連では、ローラー機械への巻き込みやスクリューへの巻き込み体験のコンテンツがありました。体験では実際に体験用のローラー機械を置いてVR上で巻き込まれたときに実際の手もローラーに巻き込まれるというような装置も製作しており、より現実味を感じることができると思います。私が体験したわけではありませんが、これは非常に怖い体験になるのではないかと思いました。
コンテンツ買切やレンタル、サブスクなど様々な取引方法があるようで、買切りの場合、40〜50万円前後といったイメージのようです。
参考URL
技能継承・作業指示
人手不足、熟練者の高齢化、熟練者と若手のコミュニケーション格差など、職人技術の継承は現在の製造業の大きな課題です。VR/AR技術はそれらの課題を解決する技術として非常に大きな注目を集めています。技能継承がなぜ難しいのかというと、製造業の各企業のノウハウとなる熟練者の技術は見た目や感覚など五感を使うことが多く、数値化、データ化しにくいという面があるためです。また作業順序や臨機応変な対応なども熟練者のノウハウでもあるので、それらもすぐに真似できないという面があります。また熟練者が高齢化していること、若い人材が製造業に来にくいことや、「見て学べ」の精神の熟練者と若手のコミュニケーションの方法の違いなども原因で技能継承は大きな課題となっています。
VRハードウェアを使い熟練者の技術をデータ化することができます。具体的には、熟練者にVRレンズ・ゴーグルを装着、さらにできれば手や体に様々なセンサを取り付けて、作業を行います。それらの作業を目線の向きなどを全て記録します。PCや動画上でそれらの作業を見返すことで、熟練者の手順ややり方を覚えることができます。通常の2D動画ではわかりにくい、目線や感覚なども記録できます。
また若手の作業する人もVRレンズ・ゴーグルを装着することで、XR技術により熟練者のアバターが出現、作業指示も行うことができます。
解決できる課題
・熟練者の技能継承、それらにかかるコスト(費用や時間)の削減
・人による作業工程のデータ化、分析による改善
向いている企業・工程
・人の感覚による作業が多い企業、工程。組立やメンテナンス、塗装、溶接など。
・熟練者が高齢化している企業。
参考企業紹介
ホロラボ
Microsoft社のHoloLens2を使用して作業の記録、3Dグラフィックのアバターを現実空間に表示して作業工程の指示などを行うこともできます。作業の記録データをcsvで出力できるため、別アプリでのそれらの分析や熟練者と若手の作業の違いを比較して可視化できることも特徴です。作業の記録は手や指、頭、目線の動きを記録できるようです。パッケージ商品としており基本パッケージは90万円のようです。
遠隔作業指示・作業支援
VR技術により遠隔の作業指示・作業支援が可能となります。作業者がVRレンズを装着することで、遠隔にいる人と情報を共有して作業を行うことができます。オンライン通信と比較して、現場作業者の両手を開けることができること、目線をおえること、現場作業者の画面にARで指示(画像やテキストなど)を表示できることが特徴です。遠隔からでも熟練者が指示・作業することができるため、機械の故障時のメンテナンスや海外工場での立上などで利用されています。熟練者が移動しなくても作業できること、ユーザー側でメンテナンスする際にサポートを得られること、海外出張に行かなくてもリモートで作業支援ができることがメリットです。
解決できる課題
・リモートでの作業が可能。作業者が出張する必要がなくなる。
・作業者の作業を統一できる。手順や指示を出すことにより間違いや抜け漏れをなくすことができる。
向いている企業・工程
・アフターサービスが必要な機械メーカー
・海外工場での生産している企業
参考企業紹介
神戸デジタル・ラボ
Microsoft社のDynamics 365を使い、遠隔での作業指示を行うことができるのですが、それらの活用に関しての導入支援サービスを行なっています。VR関連の技術は、新しい技術であり、レンズなど普段使用していないハードウェアを装着することもあり、なかなか導入・活用までが難しいのですが、それらを支援してくれるサービスです。30万円〜のプランがあります。
※遠隔作業のツールは様々な企業が販売しています。おおよそ数十万円から百万円ほどのプランが多いでうす。
レイアウト・作業工程シミュレーション
3Dモデルを現実空間に置いて、実際にモノを置いた場合のレイアウトや使用イメージを行ったり、作業工程をシミュレーションしたりといったことにも利用されています。製造業では、設計段階で3Dモデルを置いて実際に利用した場合のイメージを立てやすくしたり、生産工程のラインレイアウトを構想する段階でシミュレーションすることでより正確なラインレイアウトを行うことができます。このような3D上で工場をシミュレーションすることがデジタルツインと呼ばれており、欧米を中心に非常に導入・技術改良が進んでいます。シミュレーション及び、実際の現場においた際のイメージをMRで行うことができるので新製品の開発スピードが大幅に短縮され今後の製造業で求められる多品種少量生産の実現に繋がります。建設業では実物でのテストができない(構造物などは大きすぎて組み上がるまで実際にはテストができない)ため、設計段階から作業工程を3D上、MR上(実際の現場に3Dモデルを当てはめる)に再現できるため、活用が進んでいます。
解決できる課題
・3D上ではなく現実空間に置いた時のイメージができるため設計工数の削減。
・ラインレイアウトの工数が削減、それにより製品開発期間の削減。
・プラントや工場設備の現地立上げ作業シミュレーションによる作業工数の削減。
向いている企業・工程
・最終製品メーカー(部品加工請負ではないため、ユーザーのニーズ等によって試作・設計変更が多い)。
・現場での設置や作業を確認する必要がある機械・プラントメーカー。
参考企業紹介
DetaMesh
DetaMesh Directorは、3Dモデルを現実空間に映すMRコンテンツをユーザーで作成できるサービスのようです。今までこのようなAR/MR技術はプログラミングを行う必要があるため、業者に頼み、費用がかかることが一般的だったのが、ノーコードによりユーザー自身で作成、利用することができるため実際に活用しやすいサービスです。建設現場での現地作業のシミュレーションや、製造業では3Dモデルを映し出して動かすことによりより具体的にイメージすることなどに活用されています。
360度工場見学・バーチャル展示会
今まで紹介した製造工程や設計の課題を解決する活用方法とは別に、営業、マーケティングにも活用ができます。360度動画で撮影した工場をPC上、バーチャル上で入り込んで見ることで工場見学ができます。動画や画像では写りにくい部分までリアルに撮影できることが特徴です。自社内の情報共有として、海外工場を撮影したりする場合もあります。
またバーチャル展示会として、オンライン・バーチャル上で展示会を開催することも可能です。こちらはVRワールドさえ用意すれば、展示のコンテンツは動画やテキストなどの資料でも問題ありません。
解決できる課題
・見学が難しい工場やイメージが難しい工場・製品のPR。営業の移動コストの削減。
・展示会場出展の費用削減。
向いている企業・工程
・見学してもらうことが難しい地方・遠方の工場。
・海外など移動にコストがかかる拠点がある企業。
参考企業URL
アルファコード
様々なVRコンテンツの企画・制作を行っている企業です。VR空間でのコミュニケーションや体験を目的としており、インターネットが不安定な環境でも利用できることが特徴です。360度動画の工場紹介なども制作できるようです。
https://www.alphacode.co.jp/solution/20220405225202.html
製造業のVR技術の導入の課題と今後
ここまでVRサービスを紹介しましたが、実際にVR技術は製造業では活用されているのでしょうか?現時点では活用されているのはごく一部だと言えると思います。問合せやデモ機貸出し依頼はポツポツと出てきていますが、あまり導入には至っていません。まだ費用対効果と合わせて情報収集段階の企業が多いのだと思われます。
費用対効果の費用の面としては、教育や遠隔作業指示などは特に常に継続的に利用するものではないため、ライセンス契約で毎月の支払いがあると費用がかかってしまう印象が強いです。機械メーカーのメンテナンス作業員用などであれば、ある程度利用が考えられますが、機械を使うユーザー側が契約するメリットは今のところ少ないのではないかと考えられます。(遠隔支援に関して)
効果の面としては、できることも増えてきており、技能継承や教育面では、現在も人が都度行っているため、標準化・データ化することによる効果は大きいと考えられます。また課題に掲げている企業も多いため、今後は増えていくと予想されます。
ハードウェアの軽量化・簡素化
これはBtoCのゲームやエンタメ関係でも言われていることですが、ハードウェアがまだまだ重く、利用する際の手間がかかってしまうため、利用が進んでいないようです。これらがスマホのように誰でも扱うことが一般的になってこれば、製造業でも一気に活用され始めると思います。そのためにはまずは軽量化が必須です。VRゴーグルやレンズは主にMicrosoft社のHoloLenzかMeta社のOculus Questがありますが、HoloLenzの方が軽量で装着しやすいと感じました。Oculusはレンズ外が見えなくなることが特徴ですが、ゲームなどのように必ずしも仮想の世界に完全に没頭する必要もないため、製造業関連ではHololenz型、及び他の新しい軽量化されたハードウェアが今後増えていくのではないかと思いました。技術革新が進むに連れて活用が広がっていくと思われますので、今後も最新情報をチェックしていきます。