「商社の営業・機械商社ってきつい?しんどい??」
「体育系や理系でないとやっていけない?」
「接待は多い?」
…就職活動をしている中で専門商社業界を受けようと思った人や、機械商社に内定をもらった人などは気になるところだと思います。今回はそんな疑問にできるだけありのままに回答したいと思います。
正直なところ、機械商社の営業はきつい方だと思います。離職者に関しても極端に多くはないですが、低くはないという印象です。(私の会社でも3年以内に30%以上はやめています。)
ただだからこそ他業界やメーカーの営業への転職や他の職種でも生かすことのできることも多いと思います。
では具体的にどのようなことがきついと感じるのでしょうか。私が実際に経験した内容を元にきついと感じたことや味わえるやりがい、そして離職する人はどのように考えて離職していったかを解説したいと思います。
機械商社の営業
機械商社の営業の種類や特徴、仕事内容は下記記事で解説していますので良ければ参照ください。
また、機械商社の営業で身に付く能力・スキルはこちらの記事にまとめています。できるだけありきたりな能力ではなく、他業界・他職種でも使える具体的な能力をまとめています。
機械商社の営業できつい・しんどいと感じること
板挟み お客さんにも仕入先(メーカー)にも気を遣う
これは商社全般に言えることですが、商社は常にお客さんと仕入先のメーカー双方の意見を聞いて交渉しなければならない板挟み状態で、どちらにも腰が低いのが実情です。
何かトラブルが起きた時にも対応するのはメーカーの技術者であることが多いので、結局メーカーにもお願いしなければならない立場です。またどちらかが一方的に悪いのではなく、双方の意見がそれぞれの立場で正しいことも多く、お互いの意見を理解して相手側に説明しなければなりません。その調整役が主な仕事です。
調整役の存在意義を疑問に思ったことはありますが、案外人と人、ましてや違う会社の人と人を調整して物事を動かしていくことは一筋縄ではいかず、「商社の自分がぞれぞれの立場を理解して調整していなければ上手く進まない」と存在意義を感じることはよくあります。ビジネスは結局「人と人を調整して進めていくこと」ばかりですので、どの業界や職種にも生きる経験となります。
逆にメーカーであればお客さんと工場の板挟み、コンサルであればお客さんの現場と経営陣の板挟み、公務員であっても部署と部署や部署と社外との板挟みとなることもあるため、社会人は何かしらの板挟みはあるものと思っておいた方が無難です…
下記の漫画には専門商社に勤める商社マンの板挟みの辛さ・難しさをおもしろおかしく書いているので、仕事内容を理解するのにおすすめです。
実際の板挟みできついと感じた経験
発注後や機械が完成してからお客さんから「○○の機能も欲しい」と言われてメーカーに依頼すると、「既に機械を作ってしまっているから今更変更はできない。最初から聞いていなかったから追加費用がかかる」と言われて板挟みになることがよくあります。お客さんとしても「事前に説明がされていなかったから、○○はできるものだと思っていた。」とか「そもそも○○ができないのは機械としておかしい」と言われます。
どちらの意見もそれぞれの立場で正しいことが多く、議事録や見積など既成事実を元にお互いに納得するよう説明する必要があります。
それでもまとまらない時も、両者の言い分を理解しながら交渉して落とし所を見つけて進めなければなりません。機械、特にお客さん専用の仕様で製作する機械は発注時に全てを理解することが難しいため頻繁にこのようなことが起こります。費用の相談を持ちかけるときはきついと感じることも多いです。
存在意義があるのか? 何もできないと感じてしまう問題と結論
板挟みとも少し被りますが、「自分が存在している意味はあるのか」という問題・疑問は少なからず感じることがあります。また取引先からもそのように思われることもあります。特に入社当初の何もわからない時期などは、商社として間に入りマージンだけ載せていることに疑問を感じることも少なくありません。そのように考えなければならないことがきつい理由でもあります。
反対にブランドが確立している大手のメーカーであれば自社の商品やブランドが存在している意義を感じやすいと思います。
実際のいて意味あるのか問題の経験
これは特に新卒から数年の間よく感じました。例えば、お客さんに紹介したものに対して質問された時、毎回「ちょっとメーカーに確認します。」と確認しては、ニュアンスを伝えきれずに「もう直接話していい?」とお客さんに言われたりします。そのような時は本当に自分はいても意味ないな…と思ったりします。またもう買うことが決まっている商品に対して、過去に実績があるから、見積を出したことがあるからといって何もしていないのに自社から購入してもらう時なども、「自分って何か存在価値あるのかな?」と考えたりしました。
この問題に対する自分の結論
昔からの慣習やメーカー側やお客さんの購買システムの手間のためだけで商社が介入しているような商売は今後なくなる方向だと思います。例えば、過去に購入したことがあるからという理由だけで商社を経由したりすることなど。
そのような中で商社としては、「自分がいる付加価値をいかに出すか」を考えて行動に移すことで存在価値を出す必要があります。例えば、メーカーではできないような複数メーカーや競合他社事例を比較した提案や、複数社をまとめた提案、その他お客さんの手間を減らす機能の提案など。お客さんのニーズも多様化していて、お客さんも新しいチャレンジしなければならず新しい情報を必要としているため、付加価値を与えることができる商社は今後お客さんからより頼りにされていくのではないかと思います。
2022年度の機械工具商社がどのような取組みをしているかを業界研究として簡単にまとめています。
生産ラインのトラブルに関わる お金で解決し辛く、早急な対処が必要
機械商社は製造業の工場に対して、製品を生産するための機械を販売します。そのためトラブルがあったときにはお客さんの生産ラインが止まってしまうため、迅速な対応が必要になります。また壊れない機械が理想ではありますが、長年継続して使うもので必ずどこかが壊れます。故障は基本的に機械メーカーでしか修理ができず、技術者の空きや部品在庫がない場合、すぐに対処できないこともあります。また少額のものでもないため、クレームがきたらすぐに交換というわけにもいかず、修理や部品製作に納期がかかる場合もあり、お金だけで解決できない問題もあります。しかしお客さんも自社の生産がかかっているため厳しくもなり、それらの対応や調整がきついと感じることもあります。
生産ラインでのトラブル実際の経験
お客さんの新しい生産ライン立上げの際に受注した組立機の納期が遅れました。納期が遅れたことによりメーカー内であまり調整できないまま納入しました。そのため納入してからも不具合によるチョコ停(機械が何かの問題でアラーム停止すること)が頻繁に起こり、量産できる状態になりませんでした。何度も何度も調整や部品交換を繰り返し、ツギハギだらけのようなイメージで機械を作り上げていくことになりました。
お客さんからも納期が遅れている時はずっとメーカーの工場にこもって納期管理を求められ、納入後もすぐに不具合に対応できるようつきっきりになることを求められ、メーカーからもお客さんの要望が何度もコロコロ変わることへの不満を言われて大変苦労しました。当時は本当に毎日辞めたいと思っていましたが、今となっては一緒に乗り越えたお客さんともメーカーの技術者とも仲良くもなり、お互いに勉強になったと思っていていい思い出にもなりました。この経験を乗り越えて、自分自身もたいていのことはどうにかなるものだと考えられるようになりました。
扱っているものがわからない…機械自体が複雑で理解しにくく難しい…
機械はよく目にするものでもなく、様々な動きをしたり、電気配線やプログラミングも複雑に交わって機械となるため、非常に理解し難いです。文系なら尚更理解しにくく、自分が売っているものを詳しく知らないまま販売しなければならないことも多いです。なかなかお客さんが言ってることが理解できずにお客さんやメーカーに迷惑をかけることも多いので、そのあたりがきついと感じる人も多いです。
またなかなか身近ではないため、自分で使うこともなく、機械商社に入社した人でも機械を好きになれないという人が一定数いることも事実です。もっと身近なものや理解できるものを売りたいと言って退職する人も多いのも事実です。
ただし理解できてくるようになると、非常に奥が深く、日々の生活で使われるモノがどのようにできるのかもわかるので楽しいと感じる人が多いことも事実です。さらにやりがいの部分でもありますが、ものづくりや開発に携わることができることも魅力の一つです。それらを理解するまで、楽しいと感じるまでに数年はかかることがきついと感じる理由でもあります。
ノルマが厳しい ゼロか百かの勝負で、短期間では結果がでない
ノルマに対しての考え方はやりがいにもなりうるもので、これをきついと感じるかは人によります。消耗品で常に流れ続けるものは少なく、受注すれば大きく、失注すればゼロの場合もあります。そのため受注が続くとノルマの達成も容易で数ヶ月先まで見越せることもあります。逆に失注してしまうとどうしようもなくなることがあります。
さらに上司が厳しくノルマの達成を求める場合、きついと感じることも多いと思います。その理由に、営業活動から受注までの時間がかかるためなかなかすぐに受注、ノルマ達成とならないのが実情です。何度も打合せや検証を重ねる必要があり、お客さんの設備投資状況が変わることも多いです。仕様を煮詰めてテストなども行い、いざ受注となったときにお客さんの景気が悪くなり投資先送りといったことも頻繁に起こります。そのため短期間で成果を上げることが難しく、長い期間営業をしている人が有利になります。その点も新入社員などは難しい、きついと感じる要因かもしれません。
接待に関して
接待の頻度は会社によりますが、あまり接待で受注するということはないと思います。接待があるとすればどちらかというと卸売総合型の方が多いイメージです。理由は、競合と同じ商品を扱うことが多いため、結局卸売型は営業マンが好かれるかどうかが大きいためです。販売店も中小企業で数人〜数十人で行っており、社長に接待することも多いです。お酒やカラオケ好きの社長であれば、夜遅くまで接待が必要になることもあるのは事実です。
ちなみに私の会社は接待はほぼありません。受注した機械の出荷前立ち合いで遠方へいき、宿泊が必要な時などに一緒に食事をすることはありますが、受注するために接待するということは稀です。結局自社やお客さんによります。
新規営業やクレーム対応はBtoCよりはまだ優しいのではないか?
新規営業に関しては、難易度は非常に高いです。お客さんにとっても今後の経営を左右する設備投資になるためなかなか新規の商社から機械を購入しません。取引してもらえるような信頼関係構築に時間がかかるため難易度は高いと思います。しかし、会社対会社での取引のため、BtoC型のビジネスよりは新規営業をすること・お客さんに断られることに対するハードルは低いと思います。なぜなら、お客さん側も自分のお金を使うわけではなく、会社としての投資を考えるため、「売り込み」と認識されることは比較的少なくそこまで無下にはされません。その点では話を聞いてもらえやすく、営業はしやすいかもしれません。
クレーム対応に関しても同様で、自分のお金で購入したものに不具合があったわけではないので、お客さんも感情的になることは少なく、客観的な対策などの話ができることが多いです。その点は優しいのではないかと思います。
機械商社で感じることができるやりがい
ここまできついと感じる面を先に解説してしまいました。では機械商社ならではのやりがいはどのようなものがあるのでしょうか。自分自身が嬉しかったことも合わせて、技術的なところや興味だけでなく営業的な部分や人との関わり、商社という業態などもふまえてやりがいを考えてみました。きついと感じる部分と逆の面も多いですが、それらが機械商社の特徴でもあるため、自分の性格にあっているかの確認の参考いただければと思います。
※身に付く能力関しては、本記事冒頭に紹介した別記事で解説しています。
ものづくりに関わることができる。
車や家電、重工、輸送機器等、様々な世の中に溢れているものを作る現場に携わることができます。自分が使っているものや、街で見るものを生産している工場に入り、その生産方法にまで関わることができます。街で見かけたものが自分が関わった機械や工場で作られていると思うと、社会に貢献していると感じることができます。そして新しい製品を開発・生産するときにも機械が必要になるため、そのような時代を先駆けるものづくりに関わることができることも魅力の一つです。景気や経済ニュースと連動して、世の中で求められるものを理解することができて、極端に言えば経済発展にも貢献できる点がやりがいにもなります。
熱い技術者(人)の力になることができる。
製造業の社長や工場長、生産技術の人はものづくりが好きで、「会社のものづくりをこうしたい」という熱い想いを持っている方が多いです。私の場合はそのような熱い技術者の力になれた時に一番この仕事のやりがいを感じます。
お客さん担当者自身も自分の会社のやり方(生産方法や機械メーカー)を変えることはリスクが伴います。そのため大方、今までと同じやり方を好まれます。そこを変えていこうとすると、担当者も覚悟を持って会社・現場に説明、導入、立上げしなければなりません。そのような時に信頼してもらって、協力して上層部や現場を説得して、機械を導入、一緒に立上げていく過程はチームのようにも感じます。そしてその機械を導入することで担当者が実現したかったことの力になれた時は本当に嬉しいです。そのようなものづくりに対する熱い想いを語っている技術者は本当に目が輝いており、そのような人たちの夢の力になりたいとこちらも熱くなります。
ゼロか百かの営業の達成感
きついと感じる面でも説明しましたが、機械の営業は高額で一度購入すると数年〜数十年使用するものなので、受注か失注かの勝負になります。その勝負に勝って受注した時の達成感、社内外から認められる承認欲求を満たす感覚は一入です。
お客さんも会社として購入するために、個人の好き嫌いではなく仕様、納期、価格など本当に場合により様々なニーズを満たさなければ社内を説得して購入にまで至りません。営業としてはいち早く情報をとりニーズを把握して、お客さんの課題を解決できる最適な提案をすることが重要になります。どのように情報収集するかといったことやどのような提案をするかという作戦を立てることも楽しみの一つです。
お客さんの製品や生産現場を把握して、課題を自分で考え、自分から改善できるような提案をすることで機械商社の営業として存在意義があると思います。
また”営業職”という面では、成果が数字で現れるため非常にわかりやすく達成感を感じやすいです。そのような数字をあげることにやりがいを感じる人には非常にむいていると思います。その反面、極端に言えば数字が全てなので、成績が悪い時も目に見えてわかってしまいます。
様々な人と関わることができる
商社で営業をしていると本当に様々な人と接点を持つことができます。様々な業界のユーザー、様々な機械メーカー、展示会等でも常に新しい人と関わることができます。
さらに機械の受注となると、検討→受注→納入→立上までかなりの時間もかかり、打合せも多いため、担当者とも個人的にも深く知り合うことができます。友達や先輩とはまた違った関係で、機械のことだけでなく、お客さんの話から学ぶことは本当に多いです。また社内の人だけでなく、社外の人との関わりを深く広く持つことができる点は”営業職”特に”商社の営業”の特権と言えます。これらは自分自身の知見や人間関係を広げることになり、転職も含めた世界を広げることになります。
海外との関わりが持てる
海外と関わりたいという人もやりがいを感じることができます。製造業は海外進出が多く、海外工場での生産に関わることも多いです。海外の方とのやり取り、輸出入、現地での機械立上、工場立上もすることがあります。そのようなことをやりたいという人もやりがいを感じることができると思います。ただし基本的に日系企業の海外工場相手が多いのではないかと思います。さらに機械商社の駐在員の場合、主に日系ユーザーの海外工場への導入、または所定メーカーの海外への拡販等が主な業務ではないかと思います。
経営課題に関わることができる
特に中小企業がお客さんの場合に多いですが、経営者が商談相手になることが多いです。今後の会社の業績をかけて検討するため、経営者からしても購入する機械の選定はシビアな目でみます。技術的なことはもちろん、その機械によりお客さんがどのような投資効果があるのか、優先順位は高いのか、お客さんの競合と比較して競争力は上がるのかなど、経営課題を解決する必要があります。補助金の利用など、お客さんの経営・会計状況なども見て提案・サポートが必要となります。そのように経営者と向き合い、納入した機械がその会社の業績に好影響を与えていたら非常にやりがいを感じます。
この仕事で一番嬉しかったこと
私自身今までで一番嬉しかったことは、どんな大口ラインの受注よりも、初めての機械を購入してもらえた時のことです。そのお客さんにとっても新製品の開発プロジェクトだったのですが、その初めての取組で、初めての取引先の私の会社を選んで頂きました。しかも競合と比較してこちらの提案が少し高かったようでした。
後から理由を聞くと、もちろんメーカーの信頼度や、その他要因も多々ありましたが、最後の決め手はお客さんの必要としていた機械以外の情報を適切なタイミングで持ってきたこと、さらにその情報を私が手を加えてわかりやすくして提示したことをあげて頂きました。その時は私もまだ新人で、とにかく「横流しではいけない」、「自分自身が何かお客さんの力になりたい」と思って、その時できることを精一杯していたつもりでした。新人でもできるような全然大したことをしていないのですが、その行動が信頼に繋がったことが本当に嬉しかったです。その経験から、メーカーに頼ること、課題を解決できる機械を選定することはもちろんですが、できる限り自分でも付加価値を付けたいと思って行動しています。もう数年経ち、仕事も増え、日々をこなすことで精一杯になってしまうことも多いですが、この時の初心を忘れずにいきたいと改めて思いました。