世の中の機械において欠かせない歯車(ギア)。その歯車の製造にはバリ取りや面取り加工が欠かせません。しかし主役である歯車を加工する機械には予算をかけても、付帯作業であるバリ取り、面取りには予算をさけないという製造業も多いのも事実です。今回は手間はかかるがお金をかけづらいバリ取り・面取り工程を自動化する機械を紹介します。
「バリ取りや面取りにはとにかく予算をかけたくないが、どのような機械を選定して良いかわからない。」、「そもそもバリ取りと面取りの違いって?歯車の加工になぜ面取りが必要?」というような疑問に対してかんたんに解説します。少しでもギヤのバリ取り工程の自動化、品質安定化するためのヒントになれれば幸いです。
※実際にはワークや材質によって加工できるかどうかも変わりますので、広く浅い参考情報としてお考え頂ければ幸いです。
※多関節ロボットでのバリ取り機やメーカーは下記記事で紹介しています。
もちろん多関節ロボットでもバリ取りが可能です。ただし現状はアルミや鋳物のバリ取り用が多く、剛性面の関係でまだ歯車の面取り、バリ取りで使用されることは少ないと考えています。
※こちらの記事ではバリ取り、面取りで使われるツールを紹介しています。
歯車の種類毎のバリ取り、面取りの必要性
バリとは
バリとは、金属や樹脂を加工した際に発生する、加工箇所に残った金属カスのことです。加工した跡に残った金属片、金属跡のことです。「カエリ」とも呼ばれます。これらは製品寸法外についている金属片で、製品を手で触った時に怪我をしたり、他のものと当たった時に傷をつけたりしてしまうので、取り除く必要があります。
歯車加工のバリ
歯車を製造する工程では必ずバリが発生します。一般的にはホブ加工、シェービング加工、スカイビング加工などで歯車を製造します。どれも歯車の上から下に加工する形になるため、工具が抜け切った位置(下側の端面)にバリが発生します。
下記動画でホブ加工の一連の流れを解説されています。動画の4:28あたりではバリが出た状態の歯車を見ることができます。
歯車加工のバリ取りの必要性
上記で解説した通り金属加工部品は怪我や機能の観点から基本的にバリ取りが必要です。さらに歯車では、その後の工程で熱処理をした時にバリがあるとバリの部分がうまく熱処理できないことがあることや、歯車同志を重ね合わせて動かす際にバリ引っかかって他の歯車を傷つけたり、スムーズに駆動を伝えることができなくなってしまいます。そのため歯車加工後のバリ取りは必須です。
面取りとは
面取り加工とは、製品の角部を取り除く加工のことです。製品の角部の尖っている部分を削ぎ落として滑らかにするような加工です。下記の図のようなイメージで角が立たないようにする加工法です。面取りとはチャンファリング加工とも呼ばれます。
面取りの種類
系面取り:見てもわからないほどの量を削ぎ落として角が立たないようにする面取り方法です。通常ヤスリで擦ったり、サンダーで切り落としたり、砥石をさっと当てたりして面取りをします。
C面取り:最も一般的な面取り方法です。角を45度の角度で削ぎ落とす面取り方法です。通常図面の指示では「C1」などCの後に数値が書かれていますが、それらは、45度で1mmの長さを削ぎ落とすという意味になります。
R面取り:角部をR形状(なめらかな曲線形状)に削ぎ落とす加工方法です。加工にマシニングセンタなどの機械や工具が必要なため、コストと時間がかかります。
歯車加工の面取りの必要性
歯車加工では怪我の防止の観点以外からも面取り加工が非常に重要となります。その理由は、歯車は力を伝達して別のものを動かすもののため、2つ以上の歯車を組み合わせて使用します。そのため面取り加工で角部を削ぎ落とされた歯車同士の方が組み合った時にスムーズに駆動できます。そのため歯車では刃先を面取りすることが一般的です。適切に組み合っていなければ、異音や振動の原因にもなります。
歯車のバリ取り、面取りの加工法
では歯車のバリ取り、面取りにはどのような加工方法があるのでしょうか?
- 旋盤、マシニングセンタで行う。専用工具を用いて行う。
面取り・バリ取りツールを持たせて旋盤やマシニングセンタで加工する方法です。旋盤加工や穴あけ加工と同じ機械で行うことができ工程集約となります。NCプログラムで正確に位置を決めて加工することが可能です。ただし砥石などを持たすことができません。 - バリ取り機で行う。超硬バーや砥石など。
バリ取り専用機で行うやり方です。倣い式のように、製品の角部にそって加工するものもあります。製品を回転させて、超硬バーや砥石を当てて加工する方法が一般的です。 - 面取り機で行う。カッターなど。
面取り専用機で行うやり方です。バリ取り専用機と同じく、製品を回転させて、チップ(カッター)を当てて加工する方法が一般的です。 - ロボットにツールを持たせて行う。
昨今増えているロボットにバリ取り、面取りツールを持たせて加工する方法です。ロボットの力センサ(負荷を見るセンサ)でツールを押し当てて、当たった部分を加工する方法が一般的です。ただし剛性や繰り返し精度の観点から通常、歯車のバリ取りでは使わせれていません。 - 手作業で行う。
手作業でツールを持って行う方法です。作業時間がかかり、人によって出来栄えも様々です。また単純作業で、危険作業でもあるため作業者への負担が大きいです。
バリ取り・面取り工程の自動化のメリット
上記の様々な方法でバリ取り、面取りを自動化するメリットは、次の3つです。
- 生産性向上
作業者が行う作業を機械に置き換えることで、生産性が向上します。ストッカーやローダーをつけて自動システムで行う場合、長時間作業者が離れることができます。 - 標準化・品質安定化
特にバリ取りは明確な基準がないため、作業者の感覚によって品質の差が出てしまいます。そのため機械で行い、品質を一定にすることで品質保証ができ、基準を作ることができます。作業者で行う場合、ミスや取り残しのリスクもありますが、反対に丁寧に仕事をしすぎて時間がかかりすぎてしまうこともあります。人のよってバラつきが出るため、標準化のメリットは大きいです。 - 危険作業の回避
バリ取りは危険作業です。細かな部分を刃物で加工するため、手が滑って怪我をしてしまうリスクがあります。またバリの粉塵が出てしまうこともあります。さらに単純作業になりますので、作業者への精神的な負担も大きいです。
おすすめ歯車バリ取り機・面取り専用機メーカー
それぞれの特徴を踏まえながら、バリ取り機、面取り機の専用機メーカーを紹介します。
カシフジ
事業内容:ホブ盤、スカイビングマシン、歯車面取盤
☆特徴☆
・創業100年以上の老舗工作機械メーカー。現在は歯車加工機(ホブ盤、スカイビング盤)メーカーであり、シェアも高い。
・ホブ盤メーカーのため歯車加工のノウハウがあり、そこから製作された面取盤。
・工作機械メーカーが製作しているため剛性が高い。
製品例:ギヤ面取盤 KDシリーズ
対象ワーク:平ギヤ、はすばギヤ、スプライン、スプロケット、段付きギヤ、ウォームギヤ、他
バイトをクランクモーションで一歯毎に上下させて下から削る構造。シンプルな構造で加工タクトが速い。段取りもバイトとワークの歯溝を合わせるだけで可能。
山陽マシン
事業内容:工作機械・専用機製作、レトロフィット
☆特徴☆
・NC工作機械の専用機を製作しているため、NC装置のノウハウがある。NC歯車面取盤を製作している。
・工作機械・専用機を設計、製作しているため顧客要望にあった様々なギヤ面取盤を製作可能。
製品例①:NC歯車面取盤 GPKシリーズ
対象ワーク:平ギヤ、ヘリカルギヤ、ベベルギヤ、その他。
NC制御で歯面の切削加工を行うため、歯面の盛り上がりがなく加工面に差が出ない。特殊なカム機構により両端面同時加工も可能。様々な自動化に対応可能。別機種ではウォームギヤの面取も可能。
製品例②:ハイポイドギア稜線面取機
対象ワーク:ハイポイドギヤ
熱処理後のハイポイド歯車の稜線を研削により面取加工ができる機械。5軸CNC3軸同時制御により多品種のワークに対応可能。自動ドレス補正も可能。クーラント式で研削焼けを防止。
甲山製作所
事業内容:自動車・建機用精密部品加工。面取り機。
☆特徴☆
・自動車用・建機用精密部品加工を行ってきた中で、生産現場の声を元に作られた機械になっている。
・2軸仕様も可。砥石と超硬バーの2軸も可。
・ロボットでの搬入出や、インライン化など、様々な用途の自動化に対応可能。
製品例:面取り機 KSGシリーズ
対象ワーク:平ギヤ、インターナルギヤ、ヘリカルギヤ、ベベルギヤ、スプロケット
超硬バーか砥石を使った簡易面取り機。低価格の100シリーズから多品種に対応できる300,500シリーズまでラインナップ。300,500シリーズは手でユニットのレベルを合わせれるので多品種への対応が可能。プログラムも不要。
先生精機
事業内容:自動面取り機、大径ギア面取り機、ブラシバリ取り機、フローティングチャンファー機の製造
☆特徴☆
・面取り機専業メーカー。専用機製作、専用面取り機製作で培ったノウハウがある。
・特許技術のスタイラスで倣う方式により均一な面が取れる。側面から歯を倣う棒(スタイラス)が回転する歯車に沿い、その上をカッターで削っていく方式。
・大型ギアや様々な異形状に対応できる専用機を製作可能。
製品例:自動面取機
対象ワーク:様々なギヤ、建機や船舶用の大型ギヤ、異形状部品
スタイラスで沿いながら倣い加工を行うためプログラムが不要。クーラント仕様、インライン化、ローダー搬送、コンベア・ストッカー等周辺機器を含めた自動化が可能。
福山産業
事業内容:ギヤ面取盤、ギヤ検査機、自動組立機など専用機製造
☆特徴☆
・ギヤ面取り機、専用工作機械メーカー。ギヤの検査機も製作。ノウハウ、実績が多数。
・上下のカッターがギヤの一歯毎に前へ出て裁断するような形でバリをとるキツツキ型バリ取り機を製作。加工タクトが速い。
・プレス式など様々な特徴のある歯車面取り機を製造。
製品例①:キツツキ型バリ取り機(ギヤ面取盤) DBGシリーズ
対象ワーク:平ギヤ、ヘリカルギヤ
両端面のバリを同時に除去可能。加工タクトが非常に速い。特にはすば歯車の端面鋭角部のバリに最適。面取り加工による2次バリが出ない。5軸NC制御機ではタッチプローブで位置きめを行い、多品種に対応。
製品例②;歯車かみあい検査機 GTI-1
平ギヤ、ヘリカルギヤの歯面の打痕、歯溝の振れを同時に測定が可能。
MTR
事業内容:ギヤバリ取り機、ロボット搬送装置、ギアの製造
☆特徴☆
・自社でギヤ製作をしていた経験からバリ取り機を開発。そのため生産現場の声を元に作成した機械となっている。(現在は関連会社から独立した模様)
製品例:歯車バリ取り機 MCHシリーズ
対象ワーク:平ギヤ、ベベルギヤ、ヘリカルギヤ
ワークをチャッキングして回転させながら砥石カッターを当てる構造。ワークの角度を120度スライドすることが可能なため、様々な角度のギヤの加工が可能。ユニットを各軸をそれぞれ手動で調整することで多品種少量生産に対応。
アカシン
事業内容:搬送機器、面取機、シャーリング機の製造
☆特徴☆
・創業100年を超える企業。搬送機器の特注品で強み。
製品例:ギヤ面取機 めんとりくん
対象ワーク:平ギヤ、ベベルギヤ
倣い式の面取機。ブラシやティーチング式、2軸仕様などのオプションあり。
おすすめ面取用工具(転造盤、ギヤ加工機用)
日本電産マシンツール(旧三菱重工工作機械)
製品:歯車加工機、門型加工機、その他専用加工機、工作機械
☆特徴☆
・歯車加工機のトップメーカーのため歯車加工に関するノウハウが多数。
・歯車加工機だけでなく、ホブカッターやブローチカッターなど工具も製作しており、ノウハウ多数。
製品例:フレージングカッタ、バニッシングカッタ
対象ワーク:平歯車、内歯車、スプライン
ギアの両端を転造加工して、バリ取り、面取を行う工具。バニッシングカッタはブローチ加工後のスプラインの歯筋方向にテーパをつける工具。
グリーソン
事業内容:歯車加工機、歯車加工ソリューション
☆特徴☆
・1865年米国発の歯車加工機メーカー。
・歯車に関して加工、検査、工具、生産方法、情報管理等のトータルソリューションが可能。
製品例:面取りホブ用工具
面取り用の工具を製作。グリーソン機に搭載して、ワークに噛み合わせることで面取を行うことも、他社機で使用することも可能。ホブ加工と同時に面取り加工が可能。
おすすめ歯車バリ取りツール
旋盤やマシニングセンタでギヤのバリ取り、面取まで加工することもできます。設備を増やさないため、面取機を導入するよりは省スペースとなります。複合旋盤では、ギアの加工からタッチプローブを用いた計測、位相を合わせた上で精密に面取を1チャッキングで加工することができます。それらでバリ取り、面取を行う際のツーリングの一部を紹介します。
ジーベックテクノロジー
製品:工業用研磨・バリ取り工具
☆特徴☆
・樹脂製のブラシを回転させてバリ取りを行う工具を多数製作しているメーカー。
・様々な樹脂の種類があり、様々なワークに対応可能。
製品例:バリ取りブラシ
対象ワーク:平歯車、その他各種歯車
樹脂製のブラシをマシニングセンタやロボットに持たせて回転させてワークに当てることでバリ取りを行う。樹脂製のため傷がつきにくい。マシニングやロボットで行うことで他工程と工程集約が可能。
クロイツ
製品:バリ取り、面取用工具、バリ取り機
☆特徴☆
・バリ取り、面取工具に特化したメーカー。
・自社で面取用ロボット装置も製作しているため、ツーリングから装置化まで一括で相談が可能。
製品例:歯車、スプライン面取り加工ツール
対象ワーク:各種ギヤ、べベルギア、スプライン、ラック
旋盤や複合加工機に搭載して、回転させたワークに当ててバリ取り、面取りを行うツール。フローティング機構がついており、位相合わせが不要。
富士元工業
製品:面取用工具
☆特徴☆
・面取用工具専門メーカー。面取ツールに特化しているため、様々な種類のツールを所有。
製品例:面取りカッター
対象ワーク:平ギヤ
インサートチップを取り付けてカッターを回転させて面取りを行うツールです。こちらもマシニングセンタ等に取り付けて加工します。
HORN
事業内容:溝いれ加工工具、切削工具メーカー
☆特徴☆
・ドイツ本社の切削工具メーカー。全世界に販売している。
・超硬工具、ホルダ、コーティングなどを社内で開発している。
製品例:ギア端面バリ取り工具
複合加工機に取り付けて加工することで1チャッキングで全加工が可能。様々な特殊形状への対応も可能。
以上となります。歯車のバリ取り機・面取り機・ツールを紹介しました。少しでもバリ取り、面取の自動化、品質安定化するためのヒントになれば幸いです。