前回の記事で大型旋盤などをまとめました。調べていると巨大なものを加工する機械の大きさやメーカーの歴史により興味を持つようになりました。そこで今回は旋盤ではなくフライス加工の大型の機械、横中ぐり盤に関して紹介したいと思います。
※大型の加工機としては、門型加工機の方が大型ですが今回は横中ぐり盤を紹介します。それらの違いも紹介します。
横中ぐり盤とは
横中ぐり盤とは、主軸が横向き(水平方向)についていて、中ぐり加工を行う機械です。マシニングセンタのようにNCプログラムで動き、工具を自動交換してフライス加工や穴空け加工など様々な加工を行うNC横中ぐり盤が一般的です。フライス加工も行うので、NC横中ぐりフライス盤と呼ばれることもあります。
中ぐり加工とは
中ぐり加工とは、ドリルなどであらかじめ開けられた穴を広げる加工のことです。ドリルの穴あけの場合、ドリルが回転してドリルの直径のサイズの穴を開けますが、中ぐり場合、外側に刃物をつけて回転させることで刃物が突き出た径を加工します。より大きく、より精密な穴あけ加工ができます。中ぐり加工はボーリング加工とも呼ばれています。
立向きではありますが、穴あけ加工とボーリング加工を紹介されている動画がありました。
その他の中ぐり盤
横中ぐり盤以外の中ぐり盤は、主軸が立向きの立中ぐり盤、精密なジグを加工するためのジグ中ぐり盤(ジグボーラー)があります。立中ぐり盤は主軸が垂直方向についているため、主軸のたわみがなく、加工剛性が高いです。テーブルや主軸が付いたコラムを移動させることでより大きなものを加工することができます。門型マシニングセンタに分類されています。ジグ中ぐり盤はジグ(治具)を加工するための中ぐり盤です。ジグは高精度に製作する必要があるため、より高精度な加工が可能です。比較して横中ぐり盤はジグボーラーほどの精度は不要だが、大きなものの中ぐりやフライス加工をしたい場合に利用されます。
横中ぐり盤の構造
ものすごく簡単にですが、中ぐり盤の構造を説明します。ベッドの上に主軸がつくコラム、ワークを載せるテーブルが乗っている形です。大型であればベッドも分割されています。先述しましたが、主軸が横向き(水平向き)についていて横型マシニングセンタのような構造です。特徴としては、クイルと呼ばれる、主軸の中の回転する部分が前進することでよりワークの奥まで刃物を入れ込める形になっています。クイルが前進するか、主軸自体が伸びるかなどは機種によって違います。
XYXの動きは、ワークを載せたテーブルが移動して加工します。Z軸とは別に主軸(クイル)の前進軸(W軸)もついています。
主にテーブルサイズ1200〜2400ぐらいまでがあります。主軸径が大きければ剛性が高いです。
横型マシニングセンタとの違い
横中ぐり盤と同じく主軸が横向きについてフライス加工、中ぐり加工や穴あけ加工などを行う横型マシニングセンタとの違いは、大きく次の2点です。
1. テーブルより大きなワークの加工ができる。
横型マシニングセンタは全面カバーに覆われていますが、横中ぐり盤はカバーを取り付けはできるものの、取り外しできるので、テーブルより大きなサイズのワークを加工できます。主に横型マシニングセンタでは入らないプラント部品や産業機械の構造物など、テーブルや機械の高さより大きなものを乗せて、一部の加工を行うために利用されています。テーブル外にサブテーブルのようなものを置いて、テーブルから大きくはみ出す長尺材の端面加工なども可能です。
もしテーブルサイズ内で加工できるのであれば、横型マシニングセンタでも加工できます。価格としては中ぐり盤の方が一般的に少し高いイメージです。
2. 多品種の中ぐり加工に特化している。フェーシング加工などもできる。
横型マシニングセンタはフライス加工、穴あけ加工、中ぐり加工、リーマ加工、タップ加工など様々な加工を自動で行います。またある程度は量産品として使用されることも多いです。横中ぐり盤は、産業機械やプラント部品など、一品一様のものを加工することが多く、段取りも作業者が手作業で一つ一つセットする場合がほとんどです。様々な形状の大きな部品の様々な加工ができるよう剛性が高く、クイルが出てワークの中に入りやすい構造になっています。また後述しますが、主軸が回転して旋盤加工を行うフェーシング加工も行うことができます。
反面、量産用の横型マシニングセンタのような機能は少ないです。例えば、クーラント配管などの都合で切粉の排出性がよくなかったり、ツールプリセットの機能が少なかったりします。
もちろんそれらの量産用、完全無人化用の機能や、自動でパレットを交換するオートパレットチェンジャーを搭載している機種もございます。
門型マシニングセンタとの違い
立中ぐり盤のところでも紹介した門型マシニングセンタ、門型5面加工機との違いは、設備の大きさです。門型加工機は大型のものを加工できる反面、どうしても構造がワークサイズよりも大きくなってしまいます。テーブルの周囲に主軸がつくコラムを搭載する必要があり、テーブルの駆動軸自体も数メートルあるのが一般的です。そのため工場に入らない場合や、ピットなど工場建屋の改造も必要となります。
そこまで大きな機械が入らないけど、横型マシニングセンタよりも大きなものを加工したいという需要に適しています。プラント部品や産業機械部品、航空機機部品やインフラ部品などの加工業者、メーカーで使われています。
門型の5面加工機では上からの加工もできるため、5面加工ができることがメリットです。横中ぐり盤は基本的にテーブルの回転による前後左右の4面加工となります。
中ぐり加工以外の横中ぐり盤が使われている加工
フェーシング加工
フェーシング加工とは、中ぐり加工のようにバイトの先に刃(チップ)をつけて、主軸の回転でワークの一部を旋削(旋盤加工のように円形状に削る)する加工方法です。ワークを回転させずに旋盤加工ができます。ワーク全体を回転させることはできないけど、精度のでた円形状が必要なバルブ部品の加工や、スクリューなどの端面の加工などに使われています。中ぐり盤では、マシニングセンタと比較して大きな主軸でフェーシング加工ができるためよく利用されています。
アングルヘッドを使った垂直方向からの加工
アングルヘッドと呼ばれる、工具の先で90度垂直方向に曲がった位置に刃物を取り付けるアタッチメントを使った加工もよく行われます。ワークの上面または、ワーク内部の上面などを加工する際に、ワークの向きを変えることが難しい場合に利用されます。門型や5面加工機では、ワークの上面は加工できますが、内部の入り込んだ部分の上面は加工できない(主軸が入り込む必要がある)ため、横中ぐり盤でアングルヘッドはよく利用されます。主軸の力(回転)をダイレクトにワークに伝えて削るわけではなく、一度アングルヘッドで向きをかえるため、剛性は劣ります。
横中ぐり盤のおすすめメーカー4選
倉敷機械
事業内容:工作機械(横中ぐり盤、マシニングセンタ)、特殊機械、CAD/CAM
☆特徴☆
・創業1938年。倉敷紡績の機械製造部門から派生。
・横中ぐり盤を製造して70年以上で、中ぐり盤ではトップシェアと思われる。
・横中ぐり盤のラインナップも豊富。特殊オプションも含めて多様な横中ぐりニーズに応えることができる。テーブルのZ軸(前後)を使った加工も主軸(クイル)のW軸を使った加工もどちらもできる。(他メーカーではどちらかの機種も多い)
・特に高剛性にこだわりをもち、高トルク。大物の重切削に強み。
代表機種:KBTシリーズ
“最大トルクは約3000~4000N・mで一般的なマシニングセンタの約5〜8倍”(HPより引用)。主軸回転速度も4,000-minで同クラス最速。高剛性で重切削ができるため、難削材や金型などの加工に利用されている。
芝浦機械
事業内容:射出成形機、ダイカストマシン、工作機械、超精密加工機など
☆特徴☆
・旧東芝機械。2021年に社名を変更。
・ダイカストマシンではトップシェア。多様な機械を製造。横中ぐり盤も標準ラインナップのほか、特定ユーザー向けに特殊な加工機を製造。
・ベッドの鋳物から自社・国内で製造している数少ない機械メーカー。
代表機種:BTD-130H.R22
主軸は全面焼き入れ研削加工をしており、熱変異対策などもされていて高精度を維持できる工夫がされている。自社製NC装置によりより中ぐり盤にあった使いやすいソフトウェアを開発。
野村製作所
事業内容:横中ぐり盤、フェーシングセンター、工作機器・環境機器
☆特徴☆
・1913年創業。1918年から中ぐり盤を製造。
・クイルでの中ぐり加工と面盤でのフェーシング加工を行えるフェーシングセンタを製造。
・きさげ加工による高精度、高剛性な機械。
代表機種:フェーシングセンター FBシリーズ
中ぐり主軸の繰り出し及び、面盤をスライドさせて広範囲なフェーシング加工を1台でできます。バルブ部品などどちらの加工も必要なユーザーに適しています。他社製横中ぐり盤の場合、フェーシングを行う面盤(フェーシングユニット)は後付けで行うことがありますが、それに比べると組み込まれているため高剛性です。
日本電産マシンツール
事業内容:工作機械
☆特徴☆
・旧三菱重工工作機械。歯車加工機や門型加工機、微細加工機など幅広い工作機械のラインナップ。
・特に大型の加工機では門型マシニングセンタや門型5面加工機に強み。高シェア。
・様々な工作機械、工作機械用工具を製造しているため、加工ノウハウが多数。
・横中ぐり盤としてもテーブルではなくコラムが移動するタイプを製造。
代表機種:テーブル/コラム移動型対向機 MAF150S-T/MAF150S-C
コラムが移動するタイプでさらに対向に2つずつ主軸がついています。独立したこれらのコラム主軸毎に加工が可能なため、大型部品加工の生産性を向上できます。あまり2軸同時加工を行うことができる機械はないため、建機部品や建屋部品、プラント部品などある程度数が出る大物加工に最適です。
以上、横中ぐり盤の構造やよくある加工、マシニングセンタとの違い、おすすめメーカーを紹介しました。参考になれば幸いです。